シュリーマンが幕末の日本を探訪していたという事実は恥ずかしながら知りませんでした。考古学者である彼の視点から捉えた当時の日本の描写は実に興味深い。現在の日本人が当時の日本人のことをかなり「誤解」しているような気がした。こうした客観的な記述は実に新鮮で、頭が非常にリフレッシュされる。<BR>浅草寺の件など日本の民衆の風俗などに言及した部分は非常によい。
日本人なら絶対読みなさい、と、申し上げる。安っぽい愛国心を振り回す某総理大臣は必読であろう。この本は、日本がかつて美しい国土に美しい心の人々が住む国であった事の記録である。シュリーマンの滞在は短期間なのだが、その観察の正確さは、浅草寺の件で「私は、民衆の生活の中に真の宗教心は浸透しておらず」という、今の日本にもまったく当てはまる考察ひとつとっても明らかであろう。シュリーマンが訪れたのは幕末の血なまぐさい時代ではあったが、それでも税関検査の役人は、シュリーマンが手心を加えてもらおうと渡した心づけを「ニッポンムスコ」〔日本男児?〕といって胸を叩き断るのである。今の世に、彼らほど日本人であることを誇りにし高潔な態度をとれる人がどれだけいるであろうか。今の日本があるのは、幕末の高名な人々だけではなく、こうした無名の誇り高き人々がいたからなのであろう。この本の前半はシナの旅行記なのだが、こちらは、清朝末期という時代背景を割り引いてもシナが気の毒なほど描写が辛辣である。この差が日本とシナとの歴史の明暗を分けたのでしょうね。
トロイア遺跡の発掘で有名なシュリーマンによる、幕末期の中国と日本、共に一ヶ月ほど滞在した時の見聞録である。欧米至上主義に囚われていないことは本文を読めばよくわかるし、何らかの政治的意図を持っていたとも思えないので、ここに書かれていることは当時の忠実な描写と思って間違いないだろう。<P>「役人は心付けを決して受け取らない」、「世界で一番清潔な国民である」、「ニュルンベルクやパリの玩具製造業者が太刀打ちできないほど玩具のレベルが高い」、「淫らなシーンのある芝居を男女が共に楽しむ」などの記述は、現在の日本人が当時の日本をかなり誤解している面があると言うことを知らしめてくれる。また、それらと対比的に描かれている当時の中国の描写もおもしろい。<P>ただ、シュリーマンにとっては世界旅行の途中の一時に過ぎなかったもしれないが、日々見聞したことをもっと詳細に書き留めてくれたなら、と残念でならない。