信長の戦争―『信長公記』に見る戦国軍事学 みんなこんな本を読んできた 信長の戦争―『信長公記』に見る戦国軍事学
 
 
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信長の戦争―『信長公記』に見る戦国軍事学 ( 藤本 正行 )

「信長公記」には、ほぼ完全な自筆本が2本残されているが、自筆本同士でありながら、異同が多いのだそうだ。筆者は、この2本の自筆本について、信長と家康に対する敬称の有無を巻ごとに分析し、一方を決定稿と見る通説に疑問を投げ掛けるとともに、記事ごとの敬称や干支の有無から、カードシステムによる編纂方法を取っていることも明らかにし、カードの並べ違いや重複の例まで示してみせる。「なるほど、古文書の解析とは、こうやってやるものなのか」と、大変、面白く読むことができた。<P>さて、筆者は、その「信長公記」をおおむね信頼できる史料価値のあるもの、後世の「甫庵信長記」を伝記小説的な史料価値のないものという基本的なスタンスに立ち、「甫庵信長記」などに基づいた桶狭間の奇襲戦などの現代に伝わる通説を、「信長公記」の記述を詳細に分析したり、誤った史実の成り立ちの経過を明らかにして否定してみせ、「なるほど」と納得させてくれる。<P>ただ、この本を読んで、疑問に思うことが一つある。「信長公記」は、別に近年になって発見された本でもなく、我々一般大衆はともかく、研究者にとっては、その存在と、その中に書かれている内容については、以前から周知の事実のはずであり、そこから、昭和57年になって、ようやく通説を覆すような新説が出たということを、どう捉えればよいのだろうか。<P>実際、筆者のあとがきによると、昭和57年に筆者の新説が発表される前は、研究者の間でも桶狭間の奇襲戦などは通説となっており、現在でも、まだ通説を支持する研究者は、少なくないのだそうだ。こうなると、私などには、通説と新説の違いは、「信長公記」と、「甫庵信長記」などの後世に書かれた古文書を、それぞれどう評価するかのスタンスの違いに過ぎないのかとも思えてしまう。一度、通説を支持する立場の研究者の理論にも触れてみたいものである。

「信長公記」伝本の徹底した研究調査により「信長公記解題」の様相を呈する序章をベースに桶狭間の合戦から長篠の合戦までを従来の定説を排除し良質な資料に基づく新解釈を世に示した好著の復刊。<BR> 然しそこで敢えていうならば、「信長公記」が桶狭間の合戦年を「天文21年」(1552年)と「記述を誤っている」ことに対して、単に「永禄3年(1560年)の誤り。後世の加筆であろう。」と簡単に処理している点がひとつ。つまり、著者自身が言うところのドキュメンタリー作家たる太田牛一が、桶狭間の合戦の年を間違えるのは極めて不自然な考えられない誤記である。寧ろそこに何らかの意図・事情が介在していたと見るべきでは。今ひとつは、今川方と織田方の兵力の格差である。近世大名配置等によれば駿河・三河・遠江の三国合わせて石高約80万石、豊かな濃尾平野と貿易港を有する尾張は約65万石である。当時の兵農未分離の状況の中で輸送部隊を含めた動員力は一万石あたり、300人程度とされるので、今川方24,000人織田方19,500人となる。しかし武田・北条と三国同盟中であるとはいえ今川方も後方の備えのため6割が遠征したとして14400人、同様に織田方11700人となる。当然敵国美濃と接する織田方が後方の備えがより多く必要であることは否めない。しかし、今川方は駿河からの遠征軍のため輸送隊の割合が高くなるはずであり、その分実戦部隊の割合は低下することとなる。その一方で織田方はほぼ自領での戦闘なので多くの荷駄を必要とはしないはずである。したがって、大目に見ても今川方約15000人対織田方10000人程度の格差と想定される。加えて今川方は鳴海、大高方面に先遣隊が分散し、桶狭間が奇襲戦ではないとする場合にはこうした視点も加味されるべきと思われる。<BR> 以上の点はさておいて一方的に敗れた武田勝頼が結果的に信長の領国支配体制を大きく変更させ、滝川一益ら宿老の前線への配置転換、畿内地域の信長の軍事力の空洞化を招き光秀の謀反成立の前提条件を形成したという見方は興味深いものがある。

歴史を考えるときにいかに科学的,実証的な,言い換えれば地味な態度が必要かということを教えてくれます.一方で,歴史小説の功罪について考えさせられます.津本 陽さんなんかあんなまことしやかな信長を描いて,あれは小説なんだから許してって言うんでしょうか.歴史,それも近世の一時期を扱ったものなので世間にはあまりインパクトはないのかもしれないですが,作者の藤本氏の迫力は科学の大発見に匹敵すると思います.もう一つ,この本の悪いところは,この本を読んだ後だと,歴史小説がウソっぽくて読めなくなります.竜馬みたいに生きたいなあ,なんて司馬さんの本読んだりしたけど皆ウソっぽくて色あせて見えますよ.それぐらいこの本は衝撃的です.

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