特異な野心家ワトソンという人物を知る手がかりとなる本です。ワトソンはノーベル賞ももぎ取った天才的(天災的?)野心家ですが、執筆でもその才能を大いに発揮しています。<P>DNAのらせん構造発見劇をワトソンの目を通して赤裸々につづったという体裁で書かれていますが、ワトソンの目にどう映ったかではなく、ワトソンにとってどうあってほしかったか、という観点で編集されている内容、というのが正確なところです。<P>はげしい野心をもった人間の心を知るためにも興味深い本です。
著者のジェームス・D・ワトソンは、言わずと知れた「ワトソン・クリックの二重らせん」構造を発見したワトソン。<P>DNAの構造解明に成功するまでの過程をリアルに、そして赤裸々に語った感動のドキュメント。 <P>科学者仲間の協力だけでなく確執や嫉妬もすさまじい。 <BR>彼らが、二重らせん構造をとらえるに至る過程でのポーリングとの先陣争いのつばぜり合いも熾烈である。 <BR>発見後まもなく書かれたということで、いわゆる回顧録とは異なって、当時の新鮮な熱気が伝わってくる。 <P>アメリカからやってきた生意気なヒッピー「ワトソン」と偏屈な「クリック」が、いかに楽しそうに、また悩みながら研究をしていたかが生き生きと描かれている。 <BR>科学という普遍性や客観性を求められる仕事と、それに携わる人たちの個性や主観のぶつかりあいの対比が面白い。 <P>また、DNAのらせん構造決定の大きな証拠になったX線解析の写真を持っていたのは ロザリンド・フランクリンという女性。 <BR>この女性から、どうやって写真を見せてもらうのか? <BR>その入手方法は、果たしてフェアと言えるのか、どうか。<BR>彼女が待つ悲劇とは? <P>本文中でクソミソに描かれているX線結晶解析の大御所「ブラック卿」に「紹介文」を書いてもらっているのが、おかしい。<P>翻訳は「あの」中村 桂子さん。<BR>彼女の最初の翻訳だと思うな。。。 <BR>しかし、この発見当時の「生意気なヒッピー野郎、ワトソン」は若干25歳だったとは! <P>最近、またワトソンが書いた「DNA」と合わせて読むと、面白さは倍増です。
1962年のノーベル生理学・医学賞受賞者ジェームズ・ワトソンによる、DNAの二重らせん構造解明までの体験記。<BR> 2004年7月にワトソンの同僚フランシス・クリックが、がんのため逝去した。ワトソンは「フランシスの素晴らしい知性と優しさは忘れられない。ケンブリッジの小さな研究室でともに2年を過ごせたのは本当に名誉なことだ」と追悼した(毎日新聞より)。その2年間の出来事がこの本には詰まっているわけだ。<P>「『二重らせん』は、科学者のノーベル賞獲得への欲望が剥き出しに表現されている」という前情報を知ったうえで読んだ。そうした話が出てくることを覚悟していたからか、それほどイヤミを感じずさらっと読めた。むしろ「フランシスはまた大失敗をしでかした」というふうに、素直なまでにそのときのワトソンの心情が書かれていて、気持ちいいくらいだった。<P> 用意周到にも、ワトソンはノーベル賞級の研究成果を上げたらこうした本を上梓することをあらかじめもくろみ、日々の記録をとっていたのだそうだ。だからではないだろうが、本に出てくる関係者はフィクションの登場人物よろしく、それぞれのポジションが揃っている。仲よさげな妹のエリザベス。同僚で口数の多いフランシス・クリック。研究所に重鎮として居座るローレンス・ブラッグ卿。後にワトソン、クリックとともにノーベル賞を受賞するモーリス・ウィルキンス。アメリカにいる研究競争相手のライナス・ポーリングなどなど。しかもポーリングの息子ピーターがワトソンたちの本拠地に留学していて、ワトソンらが、ピーターから父ポーリングの研究進捗状況を掴み出すといった生々しいエピソードも書かれている。<P> もうひとり忘れてはならない登場人物を記しておく。モーリス・ウィルキンスと研究室をともにしながらも、当時の立場的な理由によりやがて反目相手となった女性科学者ロザリンド・フランクリンである。彼女の研究成果があってこそ、ワトソンたちは二重らせんの解明に成功した(というより、ロザリンドの研究成果をワトソンは盗用したようなもの)。彼女は37歳の若さで死んでしまい、ノーベル賞受賞という日の目を見ることはなかった。この本の中で、ロザリンドは例により酷い書かれようをされているが、あとがきでは旅立った人に対してワトソンは追悼している。興味をもたれた方は、ロザリンドの立場にたった『ロザリンド・フランクリンとDNA―盗まれた栄光―』という本が出ているので読まれてはどうだろう。