写真とエッセイで日本の海岸を旅していくノンフィクションの本なのである。流れるような口調にのせられて、困った事態が出来すれば眉を寄せ、上手いこといけばニンマリとしつつ、各地の土地柄人柄に魅せられながら読み終えた。<P> 私は心身虚弱もあって旅行をほとんどしないので、旅の本は旅が出来た気になってたいへん重宝である。心の〈つもり〉旅のお供が好きな作家さんであれば、こんな良いことはない。そんなわけで、楽しくうれしくホクホクとあたたかい心持ちで、読むことが出来たのだった。<P> 東北から沖縄の島まで、幅広く海岸をめぐる本書だが、実は「にっぽん海風魚旅」シリーズ二冊目とのこと。未読の一冊目を探して読む楽しみと、シリーズ三冊目を待つ喜びを得たのであった。
このシリーズは、椎名誠の一番良い部分が出ている。文章も自然で面白いし、話の流れも途切れない。出てくる料理が美味しそう。海辺の一時が人生の至福の時である。しかし、羨ましいので、星一つ落とした。
と、そんなことしかやってないのだった。一応取材で北から南の主だった島を訪ねてはいるものの、ご当地の海の幸やらをワシワシ食べてビールをあおり、地元の小学生を巻き込んで三角ベースで汗を流す。なんと羨ましい限りだろう。(と思わせるのが作戦なのか)<P>自分の出身地である山形にも「飛島」という小さな島があり。小学生のころ2回ほど日帰りで渡った思い出がある。大昔の人が生活した痕跡が確認された洞穴やおびただしい丸石が積まれた賽の河原、砦の草むらにひっそりと佇む小さな城跡を目にしたときの興奮は忘れられない。まさにあの時のワクワクした気分のまま椎名氏は旅を重ねているのだろうと思うと、なんだか体がむずむずしてきて黙ってられない。<BR>今回は隣の秋田まで接近したというのに「飛島」はまんまと飛ばされてしまった(文字通り)。いつの日かこのシリーズで、我が思い出の島が登場することを密かに楽しみにしてしまうのだった。