主人公の紫苑は、市の幼児検診で知能面で最高ランクと認定され、理想都市NO.6の特別居住地区クロノスで母の火藍と二人、優遇された生活を送っていた。<P>そして紫苑は12歳を迎えた台風の晩、好奇心から窓を大きく開け放ってしまう。<BR>そこから紫苑の運命は大きく変わる事となってしまった…。<P>その窓から侵入してきた一人の少年、ネズミ。彼は西ブロックの矯正施設から脱走してきたVC(凶悪犯罪者)だった。<BR>紫苑は怪我をした彼を放ってはおけず、手当てをし、食事を与え、あたたかいベッドも提供した。<P>しかし朝目覚めるとネズミは消えていた。<BR>後にこの事が治安局にバレてしまい、紫苑と火藍は全ての特別待遇の権利を剥奪されてしまう事に。<P>そして4年後、ある事件をきっかけに紫苑とネズミが再び出会う事となる…。<BR>というのがおおまかなあらすじ。<P>恵まれた環境で育ったお坊ちゃま紫苑は、人を疑うことを知らず、誰かの為なら迷わず危険にも飛び込んでしまう。<BR>対して、貧しい環境で育ってきた一匹狼の野生児ネズミは、人一倍警戒心が強く、決して他人の為には動かない。<BR>そんな二人が繰り広げるこの物語は、色々考えさせられる事でいっぱいです。<P>紫苑はネズミを庇った事も、特別待遇を剥奪された事も、飢えや戦いの世界に身を投じた事も、後悔していません。<BR>あの晩窓を開けなければ、ぬくぬくと温室で暮らせていけただろう一生よりも、ネズミと共に過酷な現実を生き抜く一生を選んだのです。<P>1巻の時点ではまだはっきりとは書かれていませんが、実はこの二人お互いに惹かれあっています。<BR>紫苑はネズミの強さに、ネズミは紫苑の純粋さに、自身は知らず知らずに影響されていきます。<BR>それが読んでいてとてもあったかい気持ちにさせてくれます。<P>NO.6にはまだまだ謎がありそうなので、そちらの方も気になる所です。
あさのあつこさんといえば、脆さと強さを併せ持った多感な少年(人間像)を書かせたら、一級な児童書を多く書かれる方で有名だが、彼女の書かれるお話のほとんどは児童書の枠を越えている。いい意味でムリヤリ子供を「子ども」扱いしない。彼らはいつも世の中の自分を取り巻く環境や、状況の織り成す世界を、本能的に鋭く捉えている。頼りなくフラリと周りに流されそうでいて、実は物凄くしたたかで強い。・・・その描写が清々しい。 このNo.6に関して言えば、舞台は近未来の日本、内容はサスペンスファンタジーという感じだが、話のテンポ、会話の巧妙、無理なく読み手を物語りの中に引きずり込む心理描写の上手さは、大人が読んでも十分楽しめる。 この夏休みに読書を考えている小中学生さんはもちろんの事、久しぶりに何か本でも読みたいなぁ、だけど毎日忙しいし、なにか仕事の合間に面白くてさらりと読める本は無いだろうか、と考えてる社会人の方にもぜひお薦めしたいです。 ・・きっとこの先何気に続きが気になって新刊を求める事と思います。<BR>
この本には、そういうものが混ざり合っていると思います。<BR>紫苑は何もできない、何も知らない自分にガッカリしていたけど、そういう部分をネズミは無意識に尊敬している。<BR>バカだバカだと罵っていても、紫苑の人間的な素直さと器の大きさに惹かれている。そして多分、嫉妬もしている。<BR>何も知らず、ここまでのうのうと生きてきた紫苑に。<BR>でもそういうところが羨ましくて、手負いの獣の自分に手を差し出してくれたあの一瞬の嬉しさが忘れられなくて、ずっと傍に居続け、助けている。<BR>そんな二人を包む、現実と同じくらい厄介な世界。<BR>なんだか、読んでて困ります。<BR>どうなるんだろう。