暗闘ということばがふさわしいフジサンケイグループの裏面史。<P>本書はライブドアによるフジテレビの買収劇から書き起こす。<BR>そこでIT企業の若き雄堀江氏の挑戦を受けて立ったフジテレビの<BR>日枝社長には、かつてグループの支配者であった<BR>鹿内宏明氏のクーデター追放劇において<BR>黒幕を演じたという過去があった・・・・・。<P>そこから話は<BR>鹿内宏明氏の追放劇から創業者鹿内信隆という人物の<BR>立志伝へと進められていく。<P>華やかなメディアの裏側に潜む<BR>凄惨な権力闘争の歴史を読みやすい筆致で描き出している。<P>しかし、それでもなお鹿内信隆氏がのし上がっていくくだりに<BR>ややわかりにくい部分があるのは、まだまだ明らかでない<BR>部分が多いということを表しているのだろうか。
先に難点をあげておくと、「帯」で謳っている今回のホリエモン騒動の取材はほとんど本文にはでてこない。でもだからといって落胆する必要はないほど内容は充実している。<P> 取材内容はフジサンケイグループが鹿内家3代にわたってどのような支配体制を敷き、最後に日枝率いる社内グループにそれをひっくり返されたか、またその支配とクーデターの裏にどのような策術と思想があったか、という2点。作者が文芸春秋の記者出身ということもあって、丹念な資料読解と取材によって掘り起こされてくる真実には重みがあり、かつ言い回しも含めて文章が非常に巧く読みやすい。<P> 鹿内一家衰亡記、ともよべるような大きな視点で描かれていおり、同時に巨大メディアを動かす力学や思想にも取材のメスがはいっている(特に産経新聞に代表されるグループの右傾的思想や「彫刻の森」に代表される貴族主義的志向が、経済的理由を度外視した<政治力>の源として機能してきたこと、などはかなり面白い論点。)二巻本ということで内容が多少冗長なところはなきにしもあらずだが、それを差し引いても必読の書。
私の見過ごしでなければ、この本の主人公の一人といえる鹿内宏明氏に対する取材があったのか、それとも依頼をしたが断られたのか、そのへんが分かりません。彼の近況とかもありません。そこに不自然さを感じました。これはあくまで想像ですが、全体のトーンが宏明氏に対してやや同情的なことから、多くの情報を宏明氏から内々に得ているのではないでしょうか。それでこの本価値が落ちるとは思いませんが、生存している重要な当事者の存在が薄く、最後にちょっと肩すかしをくらいました。