彼の作品はどれをとっても外れが無いので安心して購入、一気に読みました。<BR>伊坂氏特有の、社会をクールに捉える眼差しは勿論健在、仕掛けも勿論盛り沢山。<BR>後半は、始めはあまりに唐突な事実の発覚に驚きましたが、その事実があるからこそ前半部の会話の真の意味が見えてくる部分もあり・・・<BR>書きたいことは多いのですが、ネタバレにならないギリギリで書くとこんな風に抽象的にしかレビューできないのがつらいですね。<BR>この作品は社会問題がテーマでは無いのですが、現代日本の抱える問題点を考えるきっかけにも成り得る良質の作品でした。<BR>値段もハードカバーにしては割りに安いですし、読み終わったときも他の伊坂作品同様、少なくともいやな気分にはならないし、割とサッパリすると思うので、どなたにでもおすすめ出来ます。
今作は今までの伊坂作品とは微妙に雰囲気が違いました。伊坂作品の僕のイメージは「無機質でクール」という感じだったのですが、今作はクールにはクールだけど、無機質ではないといったところです。<BR> <BR> 「重力ピエロ」を想起させるような二人の兄弟が主人公になっているのですが、この二人の関係が物語に血を与えているようで読んでいて心地よかったです。<P> 「ファシズム」や「憲法改正」というものが主題ではないにしても、物語に大きな効果を発揮しています。<BR> <BR> 「愛の敵は、憎しみではなく無関心だ」<P> このマザー・テレサの名言がそれを引き立てています。<BR> 僕も「本当に怖いのは想像することをやめてしまった人間だ」という主張を持っているのでこの小説は、そういった視点で見ればすごく理解することが出来ました。<P> 結局、無関心が「魔王」なんじゃないかと思いました。ゆえに誰でも「魔王」になる可能性はあるわけで、大事なのはそこに気が付くこと、自分で考えることなんだと思いました。<P> ついでに「グラスホッパー」を出してくるところが伊坂らしくて、心憎いですね。「ドゥーチェ」のマスターもどことなく鯨のような雰囲気を持っていましたし。
誰も魔王に気づいていない。だが、自分だけは気づいている。<BR>そんな者が抱く懸念がやがて恐怖となり畏怖となる。そんな不気味さが漂う。<P>作中では主人公が“俺たちは無意識のうちに統一国家、ファシズムの体制へと導かれているのでないか”という恐怖を抱くのですが、<BR>風呂敷は広げられるだけ広げられて「さあこれをどう畳みますか?」で幕引きされます。<BR>主人公が恐怖に立ち向かう様は描かれますが、どのようにして打ち勝ったのかは描かれません。<BR>極端なたとえで言えば、週刊少年誌打ち切りの“俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ! ”みたいな終わり方をします。<BR>この点、是非が分かれるやも知れませんが、畳み様がないとも思え、無理にひとつの畳み方を提示せず、<BR>この形で終わらせてこその作品であるかも知れません。<BR>純粋に面白かったですよ。