極限状態に在りながら、濁りの無い透明な頭脳。<P>零戦は坂井氏に、この本を書かせる為に在ったと思わせる様な秀逸さ。<P> 時代を超えて私の心を強く捕らえる記録。
男が本気になる戦いとはどれほど熱いものなのかを、文面からヒシヒシと感じることが出来る。<BR>読み進めるにつれどっぷりと感情移入してしまい、あたかも自分が零戦を操縦している気がしてくる。<BR>そして圧巻は、「あとがき」にあった。これを読み、これは単なる戦記ではなかったのか、と気が付く。<BR>本文にはどこにも坂井氏が日常生活でどのような努力をしてきたのかがなく、「まさに才能の人」と感じていたが、あとがきに記された、緻密で弛まない努力を知ることにより、「戦記」が「自己啓蒙書」へと代わった。<BR>ここまで戦うこと、自己を高めること、妥協しないことにストイックであった結果、「撃墜王」となった、ということに改めて頭が下がる思いである。
執着を捨てきった平常心を当時の戦闘機乗りは身につけていたのだということが<BR>よくわかります。「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」とは『葉隠』の中の<BR>有名な言葉です。当時の坂井たちの心境がまさにそれです。今日は死ぬか、明日は<BR>死ぬかという戦場の中で、 それでも彼らはすっきりと明るく、戦友同士の絆は強く、<P>いさぎよい生き方を貫いていきます。彼らは「大空のサムライ」と呼ばれるにふさわ <BR>しかったのです。 <P>戦争は起してはならないものです。しかし、極限の戦闘の場に身を置いて、著者が<BR>到達した心の持ちようには、魅力を感じないではいられません。できることなら<BR>平常時において、このように透徹した心理状態に達することができたら、と<P>思います。しかし、それは凡人にはとうていなしえないことなのでしょう。