こんな本はほかに存在しない。地下鉄サリン事件の被害者一人一人の証言が言葉の通り掲載されているのである。作者は徹底して自分の考えや意見、考察を挟むことを否定し、ただ綿々と生の言葉が続くのである。<P>被害者の方々は同じ朝、同じ駅に居合わせたわけなので、少しずつは異なりながらも何度も同じような話が出てくる。それでも一人一人が抱える個人的背景が違うので、この事件がどういう影を落としたのかは人によって違うのだ。どうしてもページを繰る手を止めることができない。何度も涙を流しながらついに最後まで読み終えて思うことは。<P>人間の人生は一つしかない。<BR>そして誰にでも語られるべき物語がある。<BR>その物語を伝えるという、ルポタージュのあるべき姿が詰まった一冊である。
この本がインタビュー形式の本だという事は知ってました。<BR>発売されてすぐ買ったのに、何年も本棚に眠っていたのは多分そのせいです。<BR>一度もページを開いてなかったのにすでに古本の感がある本書を開いたのは、単純に読む本が尽きたからですが、後悔しました。<BR>もっと早く読めばよかった!<P>自分はTVやその他マスコミの、ほんっとに薄い情報でしかこの事件を知らなかったんだな・・と痛感しました。<BR>被害にあわれた方が100人でも1000人でも10000人でも、ディテールの無い報道では、何も伝わらないんですね。<P>それにしてもいつまでやってるんですかね、、、裁判。
私はこの本を、文系、理系の別なく、すべての大学および大学院の学生諸君に奨めます。理由は、「事実」を追究するとはどういうことかという、あらゆる学問の根本にある問題の処理への一つの道筋が示されているからです。<P> 私はかつて某大学の工学部で学生の実験指導に携わったことがありますが、「実験報告書にはあるがままの事実を書け」と口がすっぱくなるほど注意したのに、学生たちはそれをしませんでした。彼らは、あるがままの事実ではなく、すでに自分の頭の中に入っているものを報告書に書きました。それではいけないということを注意する教師が他に居なかったので、それでいいのだと思いこんでいたのです。彼らのそういう態度を矯正するのは至難のことでした。<P> 地下鉄サリン事件の報道をした新聞、雑誌、テレビ等も、記者やデスクの頭の中にあるものを紙面や電波に乗せました。そして結局歪んだ情報が流布されたのです。そこに矛盾を見出した村上氏が、被災者のプライバシーを被災者自身の判断によって守るという一点だけを唯一のフィルターとして、事実の記録に徹した『アンダーグラウンド』を発表したのです。この本が大きい感動を呼んだのは、村上氏が自分の価値観による判断を極力避けたからです。<BR> 村上氏のこの努力によって、『アンダーグラウンド』は現代日本の社会の研究に役立つ貴重な資料となっています。学者の方々がこれを生かして有意義な研究をなさる事を期待します。