村上和雄先生の話はDNAの最先端であるので、読んでいてワクワクします。今回は糖尿病の数値が、笑いによって抑制される、あるいは恋愛感情とセロトニンについて参考になり、楽しませていただいた。<BR> しかしながら、全般的に自身の身の上話等、他の著書とダブル点がなんとも、内容を薄くしているように感じてしまう。そこが少し残念である。次回はこれでもか!これでもか!といったDNAについての濃く深い講義を賜りたい。
最近は人間の遺伝子に関する科学的解明が進み、遺伝子がわかれば人間の全てが分かってしまうという風潮が多いように思う。遺伝子の研究は、医療分野等で今後の発展が見込まれる未来的分野であるが、そのことが私たちに対して、非常に矮小な人間観を提示する危険もある。<P>本書は、遺伝学者の著者が、むしろ遺伝子のON、OFFということを通して、人間の本来持っている秘められた能力を発揮できるということを、自身の研究体験談を通して解いている。私たちが何かに夢中になり熱中した時に思いもよらない力を発揮するのは、そのことによって私たちの中の眠っている遺伝子がONになるからだという。<P>また、科学の発展において重要なのは、学会などの表に表れる「デイサイエンス」ではなく研究者の失敗や、説明のつかない閃きから得られる発想を基にした研究「ナイトサイエンス」という話は、科学の研究のみならずどの分野にも当てはまるおもしろい話だ。<P>ただ本書は遺伝子のON、OFFによって人間が本来持つポテンシャルを発揮できると解いてはいるが、そのことに対する具体的科学的説明がもう一歩少ないように思う。つまりON、OFFの説明は分かるようだが、具体的にはどういう現象がそうさせているのかは、もう一つ突っ込んだ説明が欲しかった。まあその点はこの著者のほかの本を読むとよいのだろう。
私たちが持っている遺伝子は決して固定されたものではなく環境次第で働きが変わるというのが、本書の基本的なコンセプトである。だから火事場のバカ力が出る。日本で不登校の高校生がアフリカの子供の貧しい状況を見て発奮して教科書を送る仕事を始め勉学に目覚める。成績不良のアインシュタインが特許庁勤めで自由な時間ができた結果、独創的な研究が生まれる。また、糖尿病の人がお笑い漫才で笑った後で、血糖値を下げる遺伝子がONになり、血糖値が下がる。<P> このように遺伝子を活性化させる、すなわちOFFをONにすることをベースに、村上教授は自分の研究歴を振り返り、いかにして業績を上げたかのノウハウを明らかにする。論文発表等がデイ・サイエンス(昼の科学)とすれば研究の秘訣はナイト・サイエンス(夜の科学)という。著者が明らかにするノウハウは例えば以下の事項である:<P>①欧米は厳しい競争社会とは言え、日本以上に飲み食いしながらの情報交換が重要である。<BR>②自分の研究業績を懸命にアピールすることは重要で、単に論文投稿するだけでなく海外の学会に行って発表することも必要である。<P>③「その道の権威」というのは過去の業績に対する評価であって、その人のいうことが常に正しいとは限らないので、疑ってかかることが重要である。<BR>④研究には資金が必要なので、身銭を切る、時には借金をして予算に認可が下りる前に研究をスタートすることも必要である。