ニーチェといえば、ナチスと結びつけられて考えられたり、「神は死んだ!」といった過激な言葉が連想されるため、なんとなく胡散臭いと思われていることが多いですが、本書の内容も結構過激です。一方で「なるほど」と納得させられることが多いです。<P>西洋世界そのものとも言えるキリスト教(特にキリスト教に関わっている人たち)を痛烈な言葉で批判しているのは、なんとも大胆です。読んでいて確かに爽快です。<P>また、日本語訳が相当にくだけていて読みやすい。これは哲学というものに対して持っていたコンプレックスを吹き飛ばす画期的なものだと思います。(それぞれの小見出しも凝っていて笑ってしまいました。)<P>日本人の僕たちから見れば、たとえばアメリカのブッシュ大統領(とそのバックのキリスト教右派)の言動は違和感ありますよね。そうした言動の裏を知る意味でも本書は面白いと思います。もう亡くなっている有名哲学者の作品なので、訳者が個人攻撃されることもないでしょうし、面白い企画だと思います。<P>社会の洗脳に負けずに批判的に考えることの大切さが身にしみて分かります。哲学は難しそう、と敬遠せずに是非読んでみてください
現代語訳『アンチクリスト』。超訳だという批判が見受けられますが、これは翻訳の問題上仕方ないことではあります。19世紀末の日本語の文体で訳されても、読む方も訳す方も迷惑な話ですから。ニーチェの文章ってもっと難しいものなんじゃなかったのという先入観を持っている人は、この本に戸惑いを覚えるかもしれませんが、それは食えない偏見というものです。ひとまず。<P>しかし、どうも本書にはいかがわしいところが残ります。<P>なぜ、今『アンチクリスト』なのか、という問題を、普通の人なら考えるはずです。でも、この本に関してはそれすら不要。ブッシュ体制のアメリカ批判(ゆえにキリスト教は邪教だ)という姿勢をあからさまに出しています。<P>無論、アメリカの外交方針については私にも不満があります。あるけれども、それとこれとは話が別ではないでしょうか。ニーチェ自身が現在のアメリカのイラク政策について、いかんと明言したわけではないでしょうに(もしそうだとしたら、ニーチェはかなりの予言者だ)。<P>そう、この本には思想の乗っ取りの危険性があるのです。<BR>私はキリスト教を批判する場合、キリストの思想が何者かによって曲げられ、乗っ取られた可能性を考えます。<BR>訳者によって曲げられ、乗っ取られた可能性の非常に高いニーチェだという感想を持ったため、これはいかがわしい、と思ったのです。<P>わかりやすい文章で書いたのは、実はニーチェの思想を広めたいというより、それを乗っ取った訳者の思想を広めたいという目的に添うからではないかと考えてしまうのです。翻訳ってそういうものじゃないような……。<P>確かこういう煽情的なプロパガンダには、悪い面があったはずだが……と言いたくもなります。<BR>お蔭で自分でニーチェの原書に当たる羽目になりました。<BR>自分の思想のために他人の著作を楯に使う姿勢が透けて見えて、嫌だ。<P>これって根拠のない批判ですか?
ニーチェの著作は、『善悪の彼岸』『悲劇の誕生』などを読んできたが、岩波文庫の生硬な訳も禍し、その「真意は容易には分かりにくかったろうと思う。この本は、ニーチェの隠れた著作である、『アンチキリスト』をいまの若者にもチョー分かりやすく日本語訳したものである。論旨は明快、「キリスト教はウソだ」「イエスの教えと教会の僧侶の教えは全くの別物」「ユダヤ教をさらに非道くしたのがキリスト教」「ルネサンスは反キリスト教運動だった」エトセトラ、エトセトラ。編集のセンスが光っており、「バカの壁」「世界の中心で愛を叫ぶ」などの見出しが乱立する。表紙は、ニーチェと911テロの写真。新約聖書を「オカルト本」と言いきる「ニーチェ」の歯切れのよい筆致は、学術書出版社では成し遂げられなかっただろう。日本人は新興宗教の信者はかなり居るとしても、基本的に先祖崇拝、自然崇拝で成り立っている国だから、一神教のいかがわしさを突くこの手の言論は当たり前のように受けられるものの、キリスト教徒の人にこの本を突きつけてみたい。どんな反応を示すのか、楽しみである・・・。願わくは、ニーチェだけではなく、ヘーゲルとかハイデガーの著作もこのように分かりやすく翻訳されることを願おう。岩波文庫には出来ないことだから。