ワゴンに乗って過去へ行く話。ディケンズの「クリスマスカロル」を思い出してしまう設定です。<BR> スクルージは改心しましたが、この作品では改心ではなく決心でした。現実から逃げないということの大切さがおおきく感じられます。<BR> やはり重松清にこの手の話書かせたら巧いですね。
妻は不倫で家を空け、中学受験に失敗した息子は登校拒否から家庭内暴力へ、と崩壊した家庭を抱え、リストラで失業中の38歳の主人公「僕」。全て失い生きる望みを無くした深夜、駅前のベンチに座った僕の前にワインレッド色のオデッセイが止まる。ワゴンには交通事故で亡くなった親子が乗っており、「僕」を「僕」の大切な場所に連れて行く。やがてそのワゴン車に故郷で死に瀕しているはずの父親が、僕と同じ38歳の姿で同乗してくる・・・。<BR>若い父と「僕」との奇妙な道行・・・。<BR>どこで「僕」は人生を誤ったのか、いくつもの枝分かれした人生の選択の道をどうして選んできたのか・・・。ワゴンは時空を遡る。「僕」が遭遇した人生の岐路を追体験していく。<BR>ワゴン車の運転手「橋本さん」と、8歳のこども「健太くん」によるサイドストーリーもまたよい。初めてのドライブで交通事故に合い、死んだ「健太くん」に死を自覚させて、なんとかして成仏させようと願う「橋本さん」。行き残ったはずの母親に会いたい「健太くん」・・・。<BR>家族の物語、親子の物語、父親と「僕」、「僕」と息子、「橋本さん」と「健太くん」、夫婦の物語・・・。重松清がこれまでの作品の中で描いてきたテーマに通じるストーリーが展開する。大人のメルヘンと片付けるのは簡単。だがここに書かれたテーマは普遍的なものだ。<BR>家族を抱えるひと、これから家庭を築く人、子どもがいるひと、これから子どもを設けるひと・・・ぜひ読んで欲しい。<BR>家庭をもつ男なら自分の中にも、「僕」にどこか通じるところを見つけられると思う。父親への複雑な思い、妻への思い、子どもへの思い・・・。センチメンタルになるかもしれない。重松清は涙腺のツボを上手に押していくから・・・。ただ著者は決して甘い結末は用意しない。ラストも余韻深い・・。読むべし!
空虚な気持ちになったとき、手に取りました。ふわっと元気がわいてくる物語です。巻末の作者あとがきや斎藤美奈子氏による解説も必読です。