この手の『ジャック関連本』と分類される多くの書籍は、作家(研究家)の長年の思い込みや執念が反映されており、持論に有利な資料や証言のみを取り上げて結論付けているものが多い。私がこれまでに読んだ数冊の著者も、かなり無理がある説を「さも見てきたような」書きっぷりで堂々と本にしていて、読んでいて恥ずかしかった。<BR>「コーンウェル女史がジャックを捕まえた!」などというコピーを見ても、何億円つぎ込んだと聞いても「きっと誰かの説の焼き直し」だと思っていました。本書を手に入れても、すぐには読まず「いつか暇になったら読んでみよう」くらいの軽い気持ちで放置していました。気付けば文庫版が発売されていて、そろそろ読まなきゃな~~ということで、パラパラめくっていて驚きました。スティーブン・ナイトの説を真っ向から否定しているではないですか!ナイト氏の著書『切り裂きジャック最終結論』は、映画『フロム・ヘル』の原作でもあるので、これを否定する本書は多方面に衝撃を与えたことでしょう。<BR>コーンウェル女史の作品だけあって、導入部からぐいぐい引き込まれること間違いなし。遺体や関係者の写真、多数の書簡はさすがに巨額を投じただけあって充実しています。これまで他の研究家によって犯人とされてきた人物「ガル卿」「クラレンス公」「モンタギュー・ドルイット」「フリーメーソン」などを指して、コーンウェル女史は冤罪だと断言しています。同時にシッカート発言を鵜呑みにし、彼を「無実の傍観者」や「ガル卿の共犯者」として仕立て上げた研究家をバッサリ切り捨てています。多くのジャック研究家にとって、本書の出版は頭の痛い事件になったことでしょう。
巻頭のシッカートの写真や手紙類、被害者の写真を見ているうちにすぐ後ろに切り裂きジャックがいるような怖さを感じました。<BR>もちろん、科学的論理的な分析がパトリシアコーンウェルの今までの検視官シリーズのように冴え渡っているのもありますが。<BR>1世紀も前の事件を綿密にあぶりだしていく様は見事です。<BR>ただ、率直に読んでいて怖かったです。面白かったんですが夜中に一人では読めませんでした。
百年も前の事件である切り裂きジャックに作者が挑んでいるが、推理小説のようにいろいろな登場人物に”疑い”が掛けられて、という訳ではない。どちらかというと、”刑事コロンボ”のように最初に犯人が読者に知らされるのである。違うのは作者が、当時は見過ごされた様々な証拠を、現代の法医学等の科学的な視点から再度検証し、そして全ての証拠が”犯人”に対して向いていることを証明しようとしている点だ。あたかも犯人逮捕後の裁判での証拠調べのようだ。<P>分析は、科学的な視点、”犯人”の精神的分析、歴史的な記録からの”犯人”の足取り分析等々について多面的に行われており、百年前の事件ではなく証拠も生々しい最近の事件について書いているような錯覚すら覚える。加えて、作者の緻密な表現塊??のために読むと目の前に惨状が広がるようで気分が悪くなるほどだ。<P>”本”としてページ数は多いが、引き込まれつつ最後まで一気に読んでしまう。切り裂きジャックについて、何の知識を持たない読者にも楽しめる作品であろう。