日本に住む僕たちにはピンとこないが「退職した警官」というのは、ハードボイルド系ミステリにとってのひとつのジャンルなのだろう。今回のボッシュも退職はしたが、相変わらず過去の傷を癒すのはこれしかないーといったふうに動き回る。逆に「組織」という足枷がなくなったぶん、縦横無尽ーといった印象だ。ただし、バッジの威力はもう使えないので、その捜査は老獪な手練手管で、時には不様な結果になることもあるけれど。<BR>ボッシュを囲む人々の顔ぶれはあまり変化はない。ただその係わり方は劇的に変化した。それもまた「退職」がもたらしたものだ。<BR>チャンドラー亡き後のLAを描くのはコナリーしかいない。現代を的確に描写しつつも、在りし日のノスタルジックな雰囲気を描ききっている。そしてはじめて一人称で語られるボッシュの内面もー<BR>もちろんプロットも見事だ。多少大風呂敷を広げた感はあるが、きちんと収束させている。<BR>これからはじまるであろう、「私立探偵」ボッシュの物語の序章はお見事!のひとこと。さらに翻訳も進んでいるようで、うれしい限りだ。
題名になっている「暗く聖なる夜」はルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」という曲の一節だ。ロス市警を退職したボッシュは、一個人として過去の未解決事件の解明に挑む。 捜査の過程で出会う、深い悲しみを抱いて生きている人々。自分の元を去っていったエレノアへの思いと折り合いをつけられないで苦悩するボッシュ。 これらを語っていく、ひとつひとつの言葉の美しさ。古沢氏の名訳は一行たりともおろそかに読む事はできない。ボッシュのとまどいと苦悩は読む者にひしひしと伝わり、初期の作品での彼を知るものにとってはつらい場面もある。そして、物語の最後に作者が用意していたものを目にした時、あふれる涙を抑える事は難しい。 読み終わった後で「この素晴らしき世界」を是非聞いてみて頂きたい。マイクル・コナリーは、まぎれもなく現代ハードボイルドの巨匠である。
シリーズ物のミステリ小説は長くなるなるとマンネリ化する。本書は、ボッシュシリーズとしては第9作目にあたるが、前作「シティ・オブ・ボーンズ」でロス市警を退職した後の第1作目ということで、うまくマンネリから脱しているように見える。だが、ボッシュはボッシュだ。彼の本質は変わらない。いや、変わらずにいて欲しい。<BR>シリーズ物ということで懐かしい面々も登場する。彼も彼女も・・・。<BR>見かけ上の事件解決のあとドンデン返しがあって・・というコナリーの手法も健在だ。ページ数の残りを見れば一目瞭然。これも嬉しい。<BR>どんどん読み進む・・・・・<BR>わ、これはなんだ?!こんなのってありうるのか?!前作はいったい、なんだったんだ!と突っ込みを入れながら、私の目に涙があふれていた。