「日本中が震えた」という帯の惹句はちょっといただけない。犯人が黙秘し続けた秘密は、そこまでして隠すべき事かぁとちょっと興醒めです。ただし、それが暴かれる最後の場面の描き方はうまいものだと思いました。<BR>刑事、検察、弁護士、判事、それぞれの立場と事情がみせる人間模様、感情の揺らぎがよく描かれており、愉しむことが(この表現はちょっと誤解されやすい)できました。
このミス2002年版、2001年文春傑作ミステリーベスト10ともに1位。<BR>作品としての話題性とともに、直木賞の選考を巡る一連の騒動でも注目された作品である。<P>文庫化をきっかけに再読してみた。<BR>作者の作品に共通する、「警察組織と個人のありかた」というテーマを、現職の刑事がアルツハイマーの妻を殺すという犯罪をベースにおいて、事件に関係する6人の視点から描いた作品である。<BR>やはり、うまいし、面白い作品だと思うが、この作品を語るときに頻用される「感動」「感涙」「意外な結末」という言葉には同意できない。妻を思う故、妻を殺したと言いながら、理由はともかく(というより、心神喪失という事態でないにもかかわらず)、2日間妻の遺体を放置したことを考えると、アルツハイマーという病気の難しさは感じるものの、感動はできなかった。また、「意外な結末」についても、かなり早い段階でキーワードが作品中に出現し、それが印象的である故、そもそも「謎」に感じなかった。<P>細かいことを書いたが、この作品が秀作であることは間違いない。一方、アベレージの高い横山氏の他の作品と比較してこの作品が取り立てて優れているかというと、決してそうは思わない。たとえば、翌年に発行された「クライマーズハイ」の方が、「感動」という点では数段上だと思う。他の作品を未読の方は、是非これをきっかけに手にしてもらいたい。
現役の警察官。嘱託殺人の罪で出頭。だが、なぜ、自死を選ばなかったのか。物語はその謎を追おうとしてしてその道を次々に断たれていく者たちの「視点」がリレーのごとく受け継がれて話が展開されていく。取り調べた警察官、検事、記者、弁護士…。全部で6人の章から成り立っている。うち裁判官の章だけは謎解きよりも梶の犯した罪そのものに重きが置かれ、これのおかげで話全体の現実味が増している。「空白の2日間」のみの謎がなかなか解明できないだけに(最初の章の志木が水面下で捜査を続行しているが)最終章の謎解きが少しあっけない気もした。しかし哀しくて優しい謎は胸を熱くする。―「あなたは誰のために生きているのですか」。どうしても守りたい人のため―。