読者を知らず知らず引き込んでいく独特な世界観はいまだ少しも衰えない。街の書店では1巻、2巻のあたりが置いていないこともあるが、基本的に1話完結なので、この巻から読んでも問題はないと思う。<BR>「蟲」という独特なものを題材にしてはいるものの、今作では「蟲」本体よりも「蟲」と共に生きていく人々の姿が細かく描かれている。摩訶不思議なものに惑わされながらも前向きに生きていく人たちの姿は、読んでいて気持ちがいい。
天から下がる糸をつかんだため、空高く引き上げられてしまった娘。<BR>浜辺の貝殻のなかの小さな鳥の形の蟲。<BR>素手で獣を狩る男<BR>雪がいつも自分の周りに降っている少年<BR>光る酒の宴<P>の5話が載っています。<P>自然の驚異に負けないように暮らそうとする浜の人達や、父親の言っていた光る酒を造ろうとする蔵人など、<BR>一生懸命な人達の生活の中に「蟲」という奇妙な存在が入って不思議な物語が出来上がっています。<P>実在するものではない蟲ですが、お話のなかに説得力をもって入ってくるところに毎回感心して読んでいます。<BR>とくに、「浜辺で貝殻に潜んでいる鳥の形の蟲」が災いが去ると飛び立つ場面など<BR>「ああ、なるほど」<BR>と思うのです。<P>とても面白かったです。
珠玉。<BR>人々が遭遇する怪異などの原因が、通常の人の目には見えない「蟲」というものにあり、「蟲師」はそれを飯のタネにしている。蟲師と蟲の関係にしても、活かしたり殺したりと、そのかかわり方もさまざま。<BR>設定とストーリーがしっかりと噛み合っており、物語にはそれぞれ結末が用意されていて、上っ面の雰囲気で流して終わりといった話ではない。<P>この作品から受ける印象の多くは、主人公の蟲師ギンコのシニカルささえ合わせ持つ人生観を根底としていて、決して表街道を生きることができない人達の、ある意味さばけた空虚さが上手い。<BR>絵柄は墨絵のような味わいがあって、この手の世界を描くためにあるかのようなハマり具合で、頭一つ飛び抜けている感がある。まさに筆画きかと思わせるような画面もあり、作者の独特なセンスが作品の隅々にまで溢れている。<P>広がりよりも深みを持った、この物語りの放つ「てざわり」は、恐らく日本人にしか理解できないんじゃないだろうか。<BR>いわゆる「ナウシカ」のようにワールドワイドなものではなく、とてつもなく曖昧な、むしろ今の日本が忘れようとしている「ほのぐらい部分」に、さらに「ほのかな光」を当てているような作品。<BR>遠野物語などの世界を理解できる人ならうってつけ。<P>アニメ化そのものはめでたいことだが、紙という媒体の力を遺憾なく引き出せる作品であるからこそ、作者にはこれからも、「ほのぐらい光」という匙加減を忘れないでいて欲しい。