諸星作品初挑戦の方にはおすすめの一冊。かつて小学生の時、『生物都市』が手塚賞受賞で雑誌掲載されたのを読んだが、金属と溶け合う人々は気持ち悪いというより不思議な感じだった。実は諸星作品とは知らずに読んでいたのだが、先日購入して読み返し、なつかしい、と思いつつ、あらためて質の高さを感じた。絵柄は妙に温度があり、『生物都市』や『カオカオ様が通る』ではそれが暖かさ、『沼の子ども』ではナマナマしさとなってせまってくる。是非、この独特の世界を味わってもらいたい。『沼の子ども』はじわりと怖い。山奥の沼の赤ん坊という絶対あり得ない情景は、お化けや亡霊より実は恐怖だ。『カオカオ様が通る』では昔「みんなのうた」でやった「はやいなさん」を連想して、ほほえましく大好き。しかしなんといっても『生物都市』!小さくでも静かで知的なこの物語は珠玉だ。
独特のしぶいタッチと奇妙なストーリとその奥深さで一度はまったら病み付きになってしまう諸星大二郎の世界・・・<P>本書は過去30年の短編作品の中から、諸星自身が選んだ自選集の2巻目にあたります。(もう1冊は『汝、神になれ鬼になれ』)<P>●イオから戻った宇宙船。その宇宙船を中心として街に伝染していく奇妙な現象。。。これはユートピアなのか?・・・『生物都市』<BR>●中国、晋の時代。山峡の河を登ると、そこに桃源郷があった。『陽』に満ち溢れ、『陰』を排したその村で、陶淵明が出会ったものは・・・『桃源郷』<BR>●辺境の寂れた鉱山惑星。そこに降り立った男が見たものは、美しい若者たちと妖しく浮気な女たち、そして醜く枯れた嫉妬深い夫たち。やがて男は一人の女に引かれ始めるのだが・・・『男たちの風景』<BR>など 10作品。<P>『生物都市』は、学生時代に読んで衝撃を受けた作品。ブラッドベリやディックといった一級品の短編SF小説と同質の味わいです。<P>他、強大な非日常(しかも歩く)をロードムービー的に追った『カオカオ様が通る』等、本短編集は、この短い紹介では紹介しきれないほど素晴らしい作品がそろっています。<P>絶対おすすめ!
諸星大二郎が74年に第七回手塚賞を「生物都市」で受賞して以来、すでに30年たった。この作品は、今読んでも全然色あせていない。いや、PCを管理しているのか、管理させられているのか分からなくなっているような現代、至る所で監視カメラが作動している現代、ここで語られた問題意識はいよいよと切実になってきている。機械と一体になった青年が呟く言葉「夢のようだ…新しい世界がくる…理想世界が…」。<P>不思議世界への入り口を叙情豊かに描いた近年の傑作「ぼくとフリオと校庭で」。読みたいと思いながらなかなか出会えなかった不条理ギャグ漫画の傑作「ど次元世界物語」。「ヨシコちゃんと首たち」「桃源記」「砂の巨人」は単行本未収録の作品である。<P>「自選」のためか、なかなか素晴らしいセレクトである。装丁も素晴らしい。この表紙の絵からだけでもいくつもの「物語」が立ちあがるような気がする。