16歳で書いたデビュー作とはとても思えない。とにかく描写が巧い!<BR>これだけの短いストーリーの中に、伏線がたくさんはってあって、読み進めるに従って、それらが実にうまく活きていることに気付かされる。<P>あまりにもあっけない殺人と、死体となった「私」が一人称で淡々と物語を語るという、その異常さ。それが、異様なほど淡々と静かに語られるところが、また何とも言えない。<BR>読者をグイグイ引き付けて読ませる場面と、ほっと一息つかせる場面とのタイミングのはかりかたも巧い。<P>同時に収録されている「優子」という作品のほうが、個人的には好きだ。これも、現実と倒錯の境目の危うさが実に巧く描かれていて、ラストの展開にはハッとさせられる。<P>最近何かと絶賛されている乙一氏だが、作の中にあまり作者の自己主張が前面に出てこないさりげなさも、また魅力である。
何よりも驚かされたのは、視点が・・語り手が死体であるということでした。主人公である「わたし」は冒頭部で殺されてしまうのですが、別に亡霊の視点、怒りや憎しみといった描写はなく、ただ単に「わたし」そのままで、淡々と語られています。その違和感が読み手を落ち着かなくさせ、更に2人の子供が、死体である「わたし」を隠す、が見つかりそうになる。この緊迫感!!ミステリー調ではあるが、異質なホラーというべきでしょうか?16歳でこの作品を執筆したというのだから驚異的です。
ホラー好きでない人にも読んでみてもらいたい。<BR>この文体や語り方、漂う雰囲気はこの人にしか出来ないものだと思う。<P>主人公はいきなり死んでしまうけどそのあとの展開とか、それをしているのが子供なんだとか作中の出来事自体は平然と書かれているけど、逆に引き込まれてしまって人物の心理や状況をすごくリアルに感じた。だからラストだけでなく、全体が読後に響く。これを十代で書いたというのもポイント。<P>同時収録のもうひとつの作品も、先の話とはまた別の印象を残してくれる。だまされないぞ、と構えていてもやっぱりいつのまにかはまる。ヒントもちりばめられているのに、巧みにそこから目を離させられてしまった。<BR>…とにかく、読んで確かめてみて。