他の人も書かれているように、何とも不思議な雰囲気を持った作品。物語は、一つの殺人事件の被害者の息子「亮司」と、容疑者の娘「雪穂」を中心に語られる。彼らが成長するにつれて、いくつもの事件が巻き起こる。彼らがそれらに関わっていることは明らかに読み取れるのだが、証拠はない。彼らを疑う刑事や何人かの人物と共に、十九年もの年月をかけてその足取りを追っていくという、壮大なスケールの物語である。それが淡々とした筆致で、その時代時代における大きな出来事とともに綿密かつ見事に構成されている。この作品の面白い所は、その時代ごとに中心となる人物がいて、その人物らの考えや感情、行動を中心に物語は展開され、肝心の亮司、雪穂について、考えや感情が語られることはない所である。読者は、他の登場人物らと共に想像するしかないのだ。そして、物語全体を支配する陰鬱な雰囲気にいつしか引き込まれてしまう。物語の起伏という点では、やや乏しいかもしれない。しかし、その淡々とした様子が、この作品を覆うどこかぼんやりした雰囲気を増幅させるのに一役買っていることも事実である。物語終盤で、一つの真相が提示されることになるが、それさえも真実であるかどうか、結局は明かされることはない。しかし、もしそれが真実なら、彼らのしたことは決して許されることではないだろうが、そういう生き方しか出来なかった彼らに深い悲しみを抱いてしまう。そして訪れた結末に、やるせないような、悲しいような、どこか爽快感のようなものも混じった、不思議な読後感が残る。きちんとした結末がある作品を求めている方にはあまりおすすめできない。あと、普段あまり読書をしない方にもあまり薦められないかもしれないけど、本を読みながらそれについて色々考えることが好きな方にはぜひ読んでみて欲しい。いろんな本を読んでみて、しばらくたってからまた読んでみたい本でもある。
最初は殺人事件から起こって、ある2人の男女が別々の舞台で成長してゆく物語。<BR>というのは紹介文にあるので割愛して感想だけを述べますと、『白夜行』は衝撃でした。<P>主役2人の心理描写が全くなくて、いまいち何を考えているのか良くわからなかったのが本当のところ。<BR>しかしそれによって読者に「こいつはこんな性格なんだよ」と最初から決まった人格を思わせることなく<BR>1人1人の読者に自由な印象を持たせられるのは東野さんの才能だと思った。<P>驚きなのは、亮司と雪穂は文中で一言も交わすこともなく、また2人が会う様子も全く描写されていない事。<BR>それなのに読者に淡い期待を抱かせるような<BR>2人のちょっとした共通点などをふんだんに盛り込んでいる。<P>私は小説を読み進めながら、果たして2人のあれやこれやの謎は解けるのかな?<BR>などとワクワクしていましたが甘かったです。<BR>本当に読んだあとは切なくてどうしようもなかったです。<P>来年早々にもドラマ化するそうなので今から期待しています。
ワープロを使うと、作品はつまらなくなっちゃうのでしょうか。<BR>確かに、万年筆なんかを使って原稿用紙にがりがり書いているのと、ワープロでコピーを駆使して貼り付けていくのとでは、なんとなく作品の執念が違う気もします。<BR>海外の作品は、やはりタイプライターが普及していたということで、昔から文字数の多い作品があります。日本の作品が500ページを超えるようになってきたのは、実はつい最近のことなんですね。<P>さて、おそらくワープロを駆使して書かれたこの作品、どうでしょうか。ページ数にして、じつに854ページ。普通の小説を3冊くらいくっつけたような、圧倒的なボリュームです。それでいて、一気に読ませてしまう力を持った作品で、もう夢中で読んでしまえます。宮部みゆきに読ませてやりたい。<P>ミステリアスな男と女と、ある殺人事件。やがて成長していく2人のそれぞれの周囲で起こる、殺人、暴力、謎。<BR>しかし、この2人には実体がない。いつでも傍観者であり、素顔の見えない、影のような人間。「ミステリーの概念を打ち砕く、叙事詩的傑作長編」と謳われているように、物語の厚みとスケールが圧倒的です。ひとことで言ってみると、「すべてがつながっていく」ということで、無理な設定がまったくない。過去から未来、未来から過去へと、物語は必然性をかたくなに守っています。背景として描かれている大阪の街は、昭和の終わりから平成の今まで、バブルの頃。いわゆる団塊ジュニアとして育った現30代の、成長、夢、ノスタルジーを、駆け抜けるようにして書いているところは、まさに叙事詩ですね。これほど小説の世界に没頭できるような作品にであえることは、本当にしあわせなことです。<P>ひとつだけわからないのが、解説者の馳星周。<BR>この人って、誰?「ノワール」な小説を書く人みたいだけど、のわーるって何?エロ?グロ?<BR>「ノワールという言葉は、日本では誤解されている(日本に限ったことではないのだが)」とか言ってますが、それって、世界中でわかられてないってことだよね。ジェイムス・エルロイの作品も解説してたけど、途中で読むのやめちゃった。解説を最後まで読めないというのは、なかなか大変な体験だけど、今回もそうでした。ちなみに、解説は6ページしかないです。