人物描写もさることながら、皇国と帝国を、ある程度は日本とロシアに近く、ある程度は異世界風に描くバランス感覚がウマイ。これはなかなかできないことである。小説ではごまかしてしまえる架空の装備や軍服や兵器を視覚化する作業はたいへんに難しいのである。<BR> 原作小説で「かっこういい」と思えた台詞やシーンはきちんと入れた上で、独自のシーンを追加し、読者が作品世界に入りこみやすい作品になっている。<P> ケチをつける点があるとするなら、無能な働き者たる中隊長がジャガイモみたいなひどい顔に書かれていることである。家柄もやる気もあるのに能力だけが欠けているという複雑な人物を、こんなわかりやすい絵にしてはいけない。<BR> 両性具有の副官は凛々しくてマル。
原作小説ファンとして、「ジャンプ系からでて原作の味が出せるのか?おかしな作品になっているじゃないんだろうか?」と一種の怖いもの見たさで購入しましたが・・・良い意味で裏切られました。<BR>小説やゲームを原作とする多くの漫画(漫画のみならず、アニメ化やドラマ化もですが)は、殆どの場合、原作からみて明らかに「変」になりがちですが、正直、ジャンプ系漫画でここまで原作の味をわかり易く引き出してくれるとは思いませんでした。<BR>漫画版著者の伊藤悠先生と編集者に最高の賛辞を送りたい気持ちです。
原作は前々からチェックしていたんで、「あれをマンガ化するのは難しいんじゃないかな」、という期待半分不安半分で読み始めたんだが、結論からいうと、読む前に漠然と予想していたよりはよっぽど良い出来だった。<BR> なにせ、龍(中華風の天竜と西洋のワイバーン風の翼龍とがいる。後者は家畜並みの禽獣だが、前者は人間以上の知性と能力を持つ存在とされている)や剣牙虎や導術師(=テレパシーなどのESP能力保持者。ただし、様々な制約があり、万能ではない)が存在する世界での軍記物だ。「異世界物」+「ミリタリー物」、ということで、物語世界を構成する要素の説明が、自然、煩雑になりがち。そうした細かな細部は、活字媒体である小説なら、比較的誤魔化しようがあるのだが、ヴィジュアルがメインのマンガという表現方法だと、そうした細かい説明を差し挟みすぎても、読んでいてうざったい印象を与えがち。その当たりをどう処理するかなあ、という興味が、個人的な関心事だったわけですが、この作品、その辺、かなーりスマートに処理しています。<BR> たとえば、この世界、「汽船」はあるけど「汽車」はない。鉄砲は元込め式、ということで、テクノロジー的にいえば、現実世界換算でいうと、だいたい十九世紀末から二十世紀初めくらいに相当。で、当時の日本がロシアの南進策に過剰気味に怯えていたように、ちっぽけな島国である「皇国」も、大陸の「帝国」の侵攻を受け、うんぬん、というのが大まかな設定なんだけど、「皇国」の軍隊の、どこか野暮ったい印象を与える整備と、騎兵中心で颯爽とした感じで描かれる「帝国」のそれとを絵で示されると、まあ、文章でくだくだしく細かい説明なんかつけられるよりは、断然分かりやすい。そうした状況下で、「小心でありながら凶暴、かつ、軍事的には天才」、という複雑な性格に設定されている主人公・新城直衛も、原作ではさんざん「怖い顔」とか書かれているのに、このマンガ版では、三白眼ののっぺりしたシンプルすぎる造型になっている。また、そういうデザインが、場面場面での細かな表情の変化を絵で描写するのに、極めて適切であったりする。<BR> そんなこんなで、作画担当の伊藤悠は、かなり原作を消化し、かみ砕いた上で、かなり上手にコミカライズしています。基本的な画力もかなりある方だし、それ以上に、場面場面を効果的にみせる演出力がある。<BR> ということで、まだ一巻目しかでていませんし、先は長いのですが「買い」。