少しだけですが、私は障害児童との付き合いがあります。その障害児たちの現在は社会の多くの部分から隠蔽され、本当にこの本にあるように「作業所」と呼ばれるところで「預かっていただく」ことが多くの目的で給与はほとんどない、または逆に支払うなどの話を聞き、強い衝撃を受けました。この本と出会ったのは、やはり障害児童たちと長年付き合ってきた夫の勧めがあったからです。<BR> 今私たちが関わった障害児は成人を迎え、やはり作業所に通っています。彼らの本当の自立とはなんなのか、どのようにサポートし、また共存していけばよいのかを、小倉昌男という人は端的に行動で示しています。実際には資金がないと、なかなか難しいと思う場面も多々ありましたが非常に勉強になる本です。<BR> また、私たちが障害者に対に「お気の毒」と思うことはなんとなくはばかられる気持ちになりますが、小倉はこのスワンベーカリー立ち上げの動機に「気の毒だったから」という言葉をさらっと使います。それに対し、著者の建野は「私たちはこうした人たちを『気の毒』だと思うことを強制的に禁止させられているきらいがあるが、小倉は素直な感情で『気の毒だったから』と言ってのける。それは本当に障害者と向き合った人だからこそ言える言葉なのかもしれない」と書いています。気の毒は気の毒でいい、でもそこから自分がなにができるのかをきちんと真正面から考えることの方が大切なのだと教えてくれました。
経済界の大御所が自ら福祉財団を立ち上げ、交通費・滞在費等を全額支給するセミナーを開き、自らパンを焼いてベーカリー店を立ち上げる姿には度肝を抜かれました。奇麗事ではなく、実際に自分の発想力と行動力を用いてことを進めていく姿に純粋に感動しました。<P>経営学を学びはじめるのと平行して障害者の雇用に興味をもったのをきっかけに本書を手にしましたが、小倉氏をはじめ本書に登場する経営者・関係者の経営哲学だけでなく、障害者雇用の現状(月1万円の給料)をなんとか改善しなくてはならないという使命感や願い、苦労なども丁寧に描かれていました。<P>その中でも特に、銀座をはじめ全国にチェーン展開する「スワンベーカリー」というパン屋さんを中心に、実際に障害者が社会の一員であることを自覚し、自分の仕事に生きがいを感じることができる雇用を実現している点に感銘を受けました。著者があとがきで指摘しているように、小倉氏の考え・行動をたどることで「福祉の本質」を垣間見ることができるような気がします。奇麗事や哀れみを並べた従来のなんちゃって福祉よりも、よっぽど障害者が生き生きとしている様が文面から伝わってきます。「日本の福祉援助は『施設や設備』にポイントが合ってしまっている。なぜ『人(=障害者一人ひとり)』に照準を合わせないのか理解に苦しむ」という指摘も鋭いと思います。<P>最終目標として「障害者の一般企業への就労」が掲げられていますが、作業場やスワンベーカリーなどの有志店を土台に、政府の財政・施設補助や法改正などが進むことで、障害者が一般企業で働けるようになるのも無理な話しではなく、小倉氏ならば実現してくれそうという期待を持たせてくれる一冊です。<P>文体が簡潔でとても読みやすいため、中・高生にも是非お勧めしたい書籍です。
大和運輸の2代目社長・小倉昌男は1987年に社長の座を降り、1993年に「財団法人ヤマト福祉財団」を設立、福祉の世界へ飛び込む。そこで小倉が見たものは、小規模作業所で月給1万円で働く障害者の姿であった。<P>そして小倉は、そういった福祉という世界での「常識」の根本的な原因が「経営力」の欠如であることを見抜く。そんな「常識」へのアンチテーゼとして、小倉は障害者へ月給10万円を実現するパン屋さん「スワンベーカリー」を開く‥、という話。<P>面白かったくだりを2つ。<P>その1.慈善する側される側という構図の問題<P>作業所で障害者のつくった製品が、バザーにて「これは障害者が作ったものです」とのラベルが貼られた上で売られていること、つまり慈善する側とされる側の構図の上でしかなりたたないといえる擬商行為、に対し小倉が疑念をはさむ場面。<P>その2.デメリットを逆に生かす<P>スワンベーカリー十条店開設者の小島さんが、立地の面でのデメリットを逆にメリットにして、出張パン屋を思いつき、成功させた。<P>気づきがたくさん得られる良本です。