プロだから当然なのか、村上春樹氏の語り口の上手さにはいつも参らされる。これが自分のスタイルを確立することなのかと思う。<BR>わざわざ出かけなくともこの一冊を読むと作者が訪れた場所と同じ空気を吸った気がする。
この本は作家村上春樹がメキシコ、モンゴル近辺のノモンハンといった辺境そして神戸、香川といった近境を旅した時のエッセイである。辺境はなかなか普通に働いている人がちょっと休暇に出かけてみようかと思って行けるような旅ではなく、かなり危険なところにも行き、その国の辿ってきた歴史を感じ、いかに日本という国が平和で整備された国なのかと改めて感じさせられる。その一方で近境では香川にうどん屋めぐりをし、うどん屋ごとのかわった習慣に出会ったりで、やっぱり旅って行った人にしかわからない経験なんだなと思ってしまう。そんないろんな旅がこの本にはつまっており、いつしか自分もどこかに旅することを思い描いていた。
村上春樹が、遠くてなかなか行かれない辺境と、近くてもなかなか行かれない近境へ旅した際の旅行記。旅行先は、イーストハンプトン、からす島、メキシコ、讃岐、ノモンハン、アメリカ(大陸横断)、神戸の7つで、それぞれの旅行記が一冊にまとまっている。正直な印象として、力の入ったエッセイと力の入っていない(良い意味で肩のこらない、悪く言えば手を抜いた)エッセイが混ざっていると感じた。ノモンハンへの旅行記は印象深くてまた読み返したいと思わせる珠玉のエッセイ。メキシコへの旅行記も、著者の旅行への思い入れやインディオの人々への考察などが混ざってよかった。讃岐うどん食べつくし旅行は、讃岐うどんというものに疎い私からすると魅力的で(挿絵も良質)、讃岐を旅行する際にはこの本を持っていこうと思わせるものがあった。しかしその他の旅行記は、日記の域を出ないものが多いように思う(神戸の散歩はまだ良かったがアメリカ横断記はひどいように思えた)。