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春の雪 ( 三島 由紀夫 )

美しいものは手に入れることができない。<BR>手に入れてしまっては美しくなくなる。<BR>そんな三島の変的が現れた一冊だとおもいます。<BR>はっとするような表現は一級品です。<BR><追記、2005年4月11日><BR> どうやら、行定勲監督によって映画化されるようです。<BR>杞憂であればいいのですが、文学史上傑作と呼ばれるこの作品を、<BR>「文字」の世界を無視し、「映像」や「シナリオ」だけの、<BR>作品に仕立て上げられそうでなりません。(むしろ、この作品を映像化することの方が、愚行だと思いますが。)<BR> 戦後文学において、他の小説家たちに多大な影響を与えたこの作品が、そんな戦後文学、歴史に敬意を払いつつ、別な形で、行定監督なりの作品にしてもらいたいものですが・・・

三島由紀夫先生の遺作となった豊饒の海の第一巻にあたるのがこの作品である。豊饒の海のテーマは輪廻転生であり、その始まりを春の雪の主人公である松枝がつとめている。輪廻転生の物語のベースは浜松中納言物語であるが、主人公の友人本多が第四巻まで松枝の輪廻転生の姿を見つめるという構成になっている。文学的に見れば傑作であり、その価値に疑いは無い。三島先生の作品を読んだ事が無い人でもきっと興味ひかれて4冊を読破できると思う。

人間の心は斯くも複雑で奥深いものかということを思い知らされた。三島は文章表現の天才であると同時に、心理分析の天才でもあると思った。人間の心理に鋭くメスを入れ、登場人物さえ意識していないであろう感情の一つ一つを取り出して、それを言葉というものに置き換えて巧みに表現している、という感じがした。<BR>春の雪は、豊饒の海シリーズ4部作の始まりであり、筋立てはさる貴族的名家で起こった実際の事件にもとづいた「禁断の恋」の物語である。しかしテーマはそれだけに終わらず、輪廻転生という仏教的哲学も盛り込まれ、私には全てを理解するのは難しい。<BR>こういう筋書きの悲恋ものの小説には必ず泣いてしまう私だが、この作品は余りに精巧すぎて、また、主人公や脇役の登場人物たちの心理描写が緻密かつ意外性を突いており、泣くのも忘れてただ唸るのみだった。昨今の軽薄な小説とは全く異質の、超1級文学作品と言えよう。

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