文庫本の裏表紙に書いてある紹介文が、そのままあらすじなんだもん、読み終えてびっくりした。いやそれでも筋を知っていたとしてもおもしろい作品だと思う。魚津・小坂・美那子・かおる・八代・常磐の6人の生き方というか心の推移というか、皆が皆「生きている」と思えるような語り口というか。うまく言えませんごめんなさい。でも良いです。<P> 解説にあったけど、これって「恋愛小説」と捉えるヒトもいるんだね。推理小説っぽい雰囲気もあるし、社会派小説とも言えるし、スポーツ文学(登山がテーマ)とも言えるし、60年代大映ドラマ的な青春小説とも言える。解説の言葉を借りるなら、「自然vs文明という基軸」がしっかりしており、それを多面から切った結果がこのような様々な見方に取れる作品になるのだろうけど、それでいて破綻してないもんなぁ。すげぇ。
氷壁は山岳小説として有名です。山岳小説と言うと無骨なイメージがありますが、この小説では描写が非常に丁寧で、また形容が非常に綺麗です。山岳小説というジャンルにこだわらず、万人に好かれる形式のようにも思います。<P>ただ、内容的には暗い。死に始まり死に終わる。本物の登山家は死を避け得ないという前提に立つ場合、この様な条件設定でも良いだろうが、現代のように冒険が許容されない時代にあっては、少なくともこの様な遭難はほとんど考えられず、したがってこの様な暗さはほとんど感じられなくなっている。この小説の初版は昭和32年だそうだが、時代の変遷が感じられる。<P>一方でこの暗さは重みも持っている。暗さが無くなって明るさが増えると同時に重みも無くなり、現代の登山小説では読むべきものもほとんどない。この点からは貴重な一冊と言えるであろう。<P>登山の経験有無にかかわらず、重みのある小説を読みたい方にはお勧めです。
読んだ後に大きな爽快感を感じられる1冊です。<BR>特に、男気に富んだ、実直な主人公の最後の登山シーンは大変ドラマティックで、また、彼の残した手記は読むものに感動を与えると同時にその山の情景に吸い込まれていきます。<BR>全体的にストーリーがじわじわと進んで行くため、最終シーンでは一気に興奮と感動が押し寄せます。<P>山に少しでも携わる人はもちろんのこと、そうでない人も十二分に楽しめる素晴らしい本だと思います。