ポエニ戦争で宿敵ハンニバルを倒すことにより、「外患」を排除し地中海世界での覇権確立に成功したローマは、戦後発生した「内患」にどう対処していったのか。<P>改革そして反動。めまぐるしく変わる保守政権と改革政権の間で揺れ、同盟国どおし、ローマ人どおしでおびただしい血を流しながら、壮大な政治の実験を繰り返し、次のあるべき政体を探っていく・・・<P>この巻と次の巻は、「ハンニバル戦記」に比べると地味な感じはしますが、現代の政治でも実に参考になるような史実に満ちていて楽しめました。
本巻で最も印象に残ったのは、ローマの「同盟者戦役」への対処の仕方である。「同盟者戦役」は、諸同盟都市国家がローマ市民権を求め、盟主ローマに刃を向けた戦いであるが、これに対し、ローマは、戦闘を優位に進めつつも、結局は、相手が求めていた市民権を与えることで幕引きを図る。<P> 一度敵味方となって戦ったにもかかわらず、ローマは、振り上げたこぶしをそのまま振り下ろす解決ではなく、相手の要求に理を認め、こぶしをぐいとこらえる形での終結を選んだのである。<BR> これに対し、現代の戦争では、一旦始まってしまうと、双方が相手をデーモナイズ(悪魔化)してしまうため、どちらかが徹底的に破壊されるまで終結しない場合が多い。<P> この違いの源泉について考えていて思いついたのが、「多神教ローマ」VS「一神教中心の現代」という視点である。<BR> 一神教の下だと、自らを正義、それに反するものは悪と決め付けつけがちであり、それに現代の戦争の不幸が起因しているのではないだろうか。
ハンニバル討伐後のローマの繁栄の継続は、そんなに簡単なものではなかった!!<BR> ローマ人の紆余曲折は、勝者にしてなお混迷を深め、やがてローマがローマを制圧すると言う、ローマ史上初の争いを誘発するのだ。<P> リズムある文体の裏に見え隠れする名文句は、読むものを骨太の感動へと誘う。どんな自己啓発書、どんなビジネス書にも劣らないローマを舞台に活躍した名将の生きざま。<BR> 『いかなる強大国といえども、長期にわたって安泰でありつづけることはできない。国外には敵をもたなくなっても、国内に敵をもつようになる。<P> 外からの敵は寄せつけない頑健そのものの肉体でも、肉体の成長に従いていけなかったがゆえの内臓疾患に、苦しまされることがあるのと似ている。』