カエサル登場という、シリーズを通して私が最も期待していた「ローマ人の物語」8~13巻は、塩野さんの歴史に対する真摯な姿勢と豊かなイマジネーションが結集されたクライマックスとして、期待通りの読み応えがありました。 たった一人の男の想像力と行動力が「パクス・ロマーナ」への道を開く。その視野の広さは、カエサルの、自己も含めた徹底した人間洞察力がなせる離れ業だった……。カエサルのカエサルたるゆえんが納得できる名著です。 多くの人は、自分が見たいと欲する現実しか見ていない……。大いに反省させられる言葉ですが、カエサルと凡人との違いを決定付けるこの「眼力」の違いに着目し、軸足を動かさずにカエサルに肉薄しようとする塩野さんの決意のほどが伝わって来ました。 教育熱心な母アウレリア、息をのむような戦いを通じカエサルも一目を置いたガリアの英雄ヴェルチンジェトリクス、おそらく主義の違いを超えて人間の大きさに嫉妬したであろうキケロ。登場人物の一人一人が古代ローマという舞台で、生き生きと人生を演じる息吹が感じられます。
いよいよ登場した、誰もが知っている古代ローマ最大のヒーロー・カエサル。この巻では、若かりしころのカエサルが描かれています。<P>これだけ有名な世界史上の巨人ならば、さぞかし立派な紳士・・・かと思いきや、「ローマいちの女たらしにして、最大の借金王」だったというではありませんか!<P>しかも、つきあってきた全ての女から恨まれず、また、借金取りに悩まされて人生を踏み外すこともなかったというからすごいです。<BR>なぜ、そんなことが可能だったのか?本書を読めば「なるほど」と思えること間違いありません。僕たちにとっても、非常に参考になります。<P>彼がその後、どのように変わっていくのか?遅咲きの天才カエサルは、現代を生きる僕たちに大きな希望を与えてくれます。<P>もてたい人、元彼女や元奥様に恨まれている人、借金が怖くてできない人、天下を取りたい人(?)必読!
一人の著者がローマの通史を書くという試みは凄い。<BR>叙述は政治史に偏向しており、支配する側の視点から描かれることが多すぎるというのは確かに欠点だと思う。他にも研究の蓄積の膨大な家族史の成果をほとんど無視してるところとか、用語の使い方の無神経さ(「文明」とか「野蛮」とか「ローマ化」とかを無邪気に多用しているところは正直失笑を隠せなかった)とか色々と突っ込みどころはある。<BR>それでも読んでいて楽しかったのは、この巻からいよいよカエサルが登場したからだろう。「寛容」であろうとしたカエサル姿には、現代人も見習うところが多いのではと思う。塩野七生の描くカエサル像は魅力的だ。実際のカエサルがどうであったかはまた別の問題かもしれないけど。