一橋文哉氏の著作に対しては、「取材と虚構が入り混じっているのではないか」といった批判があるようだが、少なくとも本書はグリコ森永事件を知っているすべての人にお勧めできる。<P> 一橋氏は、現役の新聞記者とも言われている。本書を読む限り、グリコ森永事件を取材した大阪府警か兵庫県警の担当記者だったことは間違いないだろうと感じた。しかも優秀な記者だった(あるいは優秀な記者を統括する管理職だった)と思われる。それほど本書に触れられている情報は、深く捜査情報を掘り下げたものばかりだからだ。<P> もちろん中には、無関係とわかっている情報まで思わせぶりに書いている個所もあるが、全体としてグリコ森永事件の捜査がどのように行われたかというのを感じられる内容になっている。<P>!! 本書は、グリコ森永事件をある程度知っていることを前提に書かれているので、一から知りたいという人は、朝日新聞社から出ているグリコ森永事件に関する本を併せて読むことをお勧めしたい。また、本書も文庫化しているので、いまから読むとすれば文庫のほうをお勧めする。
「取材してたらこんな話を聞きました,こんな説もあります」的に諸説上げている点は面白いが,「だから私はこれが真相だと思う」という著者の結論がまったくなく,散漫な印象を受ける。取材メモメモとして読む分にはよい。巻末にまとめられた脅迫状も,今となっては貴重な資料。<P>ただ,決定的にがっかりしたのは,関連が疑われる組織,というか勢力のひとつを,具体名称ではなくXと記述したこと。内容を読めば,Xが何を指すのかは容易に推察できるし,であれば具体的名称を伏せた理由,伏せざるを得ない理由はよくわかるが,ここはやはり日本社会最大のタブーのひとつに挑んでほしかった。Xと記述したことで,もう何を書いても,「でもXを具体的に記述できないじゃん,やっぱりこのタブーには踏み込めないじゃん,結局腰砕けじゃん」といった思いに駆られてしまう。
事件の概要を説明するというより、犯人探しをするような本。<BR>筆者の持っている捜査メモには、犯人と思われる人物の実名が載っている。<BR>警察は、ほぼ犯人は分かっていたが、ある組織の圧力によって跳ね返されてしまった。その組織はグリコに大きな恨みを持っている。読んでいると、その組織が自然と浮かんでくる。<BR>また、キツネ目の男・カーチェイスで逃がした男といった、これまで犯人とされてきた人物をもう1度考えると、当り前のようでほったらかしにされてきた事に気付く。時効後、犯人グループから筆者に手紙が届く。それが本当の犯人である証拠は、きっちりと作中に書かれている。