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| 晴子情歌 下
(
高村 薫
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高村薫を読み込んできたファンとしては、これまでの作品と比較してあまりの作風の変化に、最初は違和感を覚えるかもしれない。だからこそ逆に、長年のファンも、この作品から初めて高村薫の小説を読む人にも、斬新な筆致が味わえるだろう。<P>本書で主人公とされる晴子の出生から青春時代、結婚、そして老いに至るまで、戦前戦後の過酷な歴史の渦に翻弄されたといっても過言ではない。ひとりの女性史として捉えるにはあまりにも重いテーマであるとともに、登場人物のひとりに語らせている外地での戦争体験が、筆者の史観をうかがわせる。<P>この本の登場人物は非常に多く、また入り組んでおり、しかも先述の通り、登場人物自身が重苦しい時代を背負っていくことを余儀なくされる。読書の際は、登場人物相関表、および年表を自身で作成しながら読み進むと、後々の助けとなろう。<P>初夏に一時帰国した際、北海道に飛んで日本海側の町、初山別を訪れた。かつて鰊の群来で栄えたというこの町で、晴子が永遠の恋人となる人物に出会った様子を、荒々しい日本海を眺めながら想いをゆくらせた。ついで青森にわたり、西津軽の七里長浜を訪れた。七里長浜は、下巻の最後で晴子の息子・彰之が対峙する海でもある。彰之の母への想いを推しはかりながら、暮れなずむ日本海を目の当たりにしていた。
文章の構成や描写は高村薫のものなのに、取り上げたテーマ自体が「高村薫」らしくなかった。<P>それはまあ、私が高村薫に対して期待していた類の小説ではなかったというべきだけれど。<P>正直、主人公の誰にも興味がもてなかった。<P>次回作に期待します。
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