茂木さんの問題意識は、近代科学が置き去りにしてきた心脳問題へのひとつの解決がクオリアを通してできないかということみたい。(違っていたらごめんなさい) 約40年前に、小林秀雄が「感想」でベルクソンを引用しつつ途中で置き去りになってしまった問題に対しての新たなアプローチとおもわれる。<BR>「こころ」「じかん」「ことば」人間はなんているんなことを考えるのだろう。<BR>心と体の関係は?記憶はどこにあるの?肉体が滅びるとその人の記憶も途切れてしまうのか?など、<BR>小林秀雄の後継者が、40年の時空を超えて新たに切り開くもの。<P>ただ、小林秀雄と茂木健一郎はあきらかにちがう。小林秀雄は本当に書きたいことが現れるまで書くなといった人、かたや現代の小林秀雄は、BlogやHPで書きまくっている。この辺は、時代の変化か?文章の重みの差になってしまうのは仕方の無いことかもしれません。
茂木氏の書く文章は多くの分野をクロスオーバーしつつ、<BR>さらにそこに様々な要素をからめつつというものなので、<BR>一言で言うのは非常に難しいのだが、あえて乱暴にいえば、<BR>人間が体験することは、「現実」も「仮想」も含め、すべて<BR>「脳内現象」である。そしてわれわれは有限である「現実」<BR>と無限の広がりをもつ「仮想」の両面を味わいつつ生きて<BR>いくのだということを、サンタクロースの例から始まり、<BR>小林秀雄や小津安二郎の映画をひきつつ解説している。<P>この本をよむと、日常経験する様々な苦痛や苦難なども、<BR>すべては「脳内現象」を通じて感じているものであり、自分<BR>の意識次第である程度コントロールできるような気がしてくる。<BR>現在、これほどまでに哲学・思想、文学の分野をふまえつつ<BR>サイエンスを論じられる著者はなかなかいないと思う。<BR>一読に値する。
今、もっとも注目されている脳科学者、茂木健一郎氏の著である。<BR>『脳と創造性』に感銘を受け、本書にも挑戦。<BR>学術論文や専門書とは違い、氏の文章は平易なため<BR>一見ライトなモノに感じるが、感覚的に描かれた部分ほど<BR>躓き、実は考えなければいけない難解さを持っている。<P>本書で提起されるのは、たとえ「現実」というものがどこかにあるにせよ、<BR>我々の脳が認識できるのは、所詮脳が感覚器官から受け取った情報をもとに<BR>編み出した「仮想」に過ぎず、「他人の魂」の存在などは、<BR>死者や幽霊や小説の登場人物と同列だという刺激的な定義である。<P>しかし私たちの生きる、有限な脳内の「仮想」は無限の広がりを持ち、<BR>閉じ込められてはいるが、限りなく自由であるという性質を持つ。<BR>そこに魂が、意識が、物質の中から生まれるという奇跡を喜ぶべきだと<BR>当たり前の結論ながら、氏は鮮やかにそれを訴えてみせるのだ。