硫黄島の戦略的な重要性は、飛行場を作る事ができる点にある。すなわち米国にとって硫黄島を占領することは日本本土に自由に爆撃できることを意味し、逆に日本にとってこの島を防御することは本土への空襲を最小限に抑えることができるわけである。この重要な島(硫黄島)の総指揮官を務めた中将(死後大将)が栗林忠道氏である。<BR>陸軍大学を2番で卒業していながら本流に乗らず(あるいは乗れなかった)、帰還することのできない硫黄島に赴任していく。2万人の将兵とともに、硫黄島の地下にトンネルを掘り、島そのものを強靭な要塞化し、米国軍隊に多大な損害をあたえ、最後には指揮官が先頭にたって玉砕してその人生を終わる。<BR>この本では「厳しくかつ合理的な軍人である栗林忠道中将」と「家族あるいは部下の兵隊達に対して優しく温情あふれる栗林忠道氏」を描いている。<BR>戦争と言うものは人の殺し合いであるが、個人に戻れば良き父、良き夫、良き家族なのである。
戦争モノなんてほとんど読んだことのない私ですが、朝日新聞の著者インタビューを読んで、これは従来の戦争モノとは違うかもしれないと思い購入しました。女性の私は、栗林中将の奥さんへのこまやかな愛情と娘さんへの思いやりにまず打たれました。でも読み進むうちに、それだけではなくて、日本の一般市民の命をひとつでも多く救おうと、ほんとうに悲惨な状況の中で粘り抜いて戦い、そして死んでいった2万人あまりの兵士たちひとりひとりに、心からお礼を言いたい気持ちになりました。あの戦争は間違っていたと思うし、美化する気持ちは毛頭ありませんが、あの時代、前線で戦った人々が、心から国を思っていたことは確かだと思います。戦後60年の節目に、戦争を知らない世代の私たちにいろいろなことを考えさせてくれる好著だと思いました。
丸山健二や勝谷誠彦が激賞していたので読んだ。悪くはないが、やや掘り下げが浅く、なにか肝心なものがすっぽり抜け落ちている気がする。栗林中将が硫黄島戦で見せた合理的な戦略や思考を体得するプロセスがあまりにさらりと(理由を、幼年学校ではなく普通の中学卒だったことやアメリカ留学歴に求めているが、それだけでは安直では…)しすぎて、腑に落ちない思いが残った。そして、どこかで見たような、嫌な既視感みたいなものがあった。はたと思った、そうだ、これはそのままプロジェクトXではないか。