2003年夏、家族らと舞鶴からフェリーに乗って小樽へ旅行した。<BR> 僕はゆったりとした船旅が大好きだ。何もすることがない、何をしてもいい時間の存在は貴重だ。時間と金銭的余裕、航路がある限り、旅行は船を使う。<BR> 今回は約30時間の船旅。奮発して不相応な上級船室を陣取ることになったため、持参する書物の選考は極めて重要である。<P> 「そんなに読める訳ないでしょう」と妻に笑われながら、本著のほか、数冊の本を運び込んだ。<BR> 本著は、料理、骨董、絵画、旅行、猫……。人生を謳歌した向田さんのライフスタイルを紹介している。ほかの向田本の内容と重複する部分もあるため内容は頭にすんなり入ってくる。<P> 妻が予言した通り、船内の探検や食事、上陸後の観光コースを思案するなど、短く貴重な船内生活を読書だけで楽しむわけにはいかず、読み終わったのは小樽に着くほんの数時間前の夜中であった。<P> 夜も明け切らぬ午前4時。フェリーの腹の中から愛車を運転して、「うわあ、北海道だあ」と思わず歓声を上げてしまった。向田流ライフスタイルは今のところ「夢のまた夢」に終わる気がしている。
向田邦子といえば、かつて多くの名作ドラマを生み出した脚本家で、かつ直木賞作家です。と書くと、彼女を知らない人は髪振り乱したキリキリのキャリアウーマンを思い浮かべるかもしれませんが、実際の彼女はとても感性豊かな女性で、料理上手でした。本書にはその料理の腕前はもちろん、好きだった器や書画や骨董、そして旅行にいたるまで、暮らしを楽しむライフスタイルが生き生きと描かれています。向田さんのファンも、そうでない人も楽しめる一冊です。