本書は、「環境犯罪学」の視点から、犯罪を誘発しやすい環境を改善することで、犯罪の発生を抑制することが可能であることを平易に示したものである。<P>本書の基本的モチーフは、犯罪は、1.犯罪の意図を持つ行為者、2.犯罪の対象(ターゲット)、3.犯罪の監視者の不在、という三つの要素で成立するという。このため、1.および2.を壊滅させることがそもそも不可能であることから、3.の存在の強化こそが、犯罪抑止につながるとしている。<P>本書においては、大阪における高校生の調査から、学校の制服が目立てば目立つほど、言い換えれば、一見して身分が特定されればされるほど、すなわち、外部による監視が強化されればされるほど、非行率は低下することを指摘している。さらには、これらの要素が結びつくことを回避することも抑止につながるという。<P>凶悪犯罪が多発する中、こうした現実的な犯罪抑止策を論じた本書の意義は極めて大きいといえる。特に本書において強調されていることは、犯罪行為者の属性や動機といった要素はすべて捨象し、「いかに踏みとどませるか」に専念していることだ。犯罪をめぐる議論では、とかく、犯罪行為者の問題点が取り上げられ、さらに、それが「社会の問題」に極めて強引に昇華され、その対策として「心のケア」という意味不明なものに予算措置が行われていることからすれば、如何に本書の指摘が現実的かつ科学的であるかが理解できよう。<P>こうした現実の問題解決を最優先した環境犯罪学という分野が、日本において発達していないがために、特に(社会構造の原因に強引に昇華させる)「社会学」のように、観念的かつ無意味な議論に展開しているといえるだろう。このことは、著者もあとがきにて、科学研究費補助金の分類に「犯罪学」が存在していないことを指摘しており、凶悪犯罪が多発する中で、問題解決に有益な学問分野に対する資金投入を強化すべきであろう。
犯罪者個人へ原因を追及するのではなく,環境へ原因を求めている視点がとても新鮮でした.データとそれを説明する理論の関係もよく分かり,新しい視点を切り開いてくれ,面白かった.<BR> 以前に借りていた自宅へ空き巣に入られたことがあったのだが,この本で紹介されていた環境犯罪学で言う泥棒に入られやすい環境そのものだった点がこれまた面白かった.
念願、でもなかったがマイホームを購入しようと思い立ち、お目当ての土地でさまざまな物件を見て回った。マンションと一軒家を候補に絞り込み、最終的に選んだのは一軒家だった。本著を読んだのは、そんなときだ。<BR> 決め手になったものはいくつかあったが、防犯態勢が大きい。<BR> 確かに、マンションはオートロックで出入りを制限し、有名警備会社とも提携してボタンひとつ、あるいはベランダの振動ひとつで警備員が駆けつける。<BR> ただし、不審者が秘かに侵入し、脱出できるルートは幾つかあったし、「共同住宅」の割にマンション住民は隣近所の異常に無関心でありがち。<BR> また、販売員の何げない一言、<BR> 「いずれ『マンションの玄関まで新聞を取りに行くのが面倒』という意見が管理組合で出て、『せめて新聞配達員には各戸前まで出入りができるようオートロック規制を緩和しよう』との動きが出てくる」<BR> で、急速にオートロックがあるがゆえの「安全神話」が崩壊した。<BR> 一軒家の方は言うと地元の不動産会社が仕込んだ建て売り。突き当たりが行き止まりになった路地の左右に玄関を向かい合わせにして建っている。路地への侵入は可能だが同じ道を通らなければ脱出できず、路地に入れば窓という窓からの視線を意識せざるを得ない。<BR> 本著が提示する、防犯効果がある住宅の条件をすべてクリアできる物件は多くはないと思う。だが、家を買うなら借りるなら、ローン返済額や家賃の金額以外にも考慮すべき要素があるのだよ、と教えてくれる。