名ピアニストの残した本ということで技術的な話題を期待する人が多いかもしれませんが、基本的にはピアノを弾くということに対する心の持ち方を説いた精神論だと思います。<BR>奏法やペダリングの話題も登場しますが、ほとんど技術解説に留まっており、実際の演奏への応用についてはあまり触れられていません。「こういう奏法がよい」とか「ペダルの踏み方にはこういうものがある」という知識は身に付きますが、そういった技術を身につけるための練習法がすっぽり抜けているんですね。ですから、この本を読むだけではピアノは上達しません。例えば「指を伸ばした状態で弾くと、繊細なタッチでレガートを生むことができる」というような記述がありますが、その技術を身につけるために何年もの地道な練習が必要ということは書かれていません。<BR>著者のような名ピアニストは才能に恵まれ、あまり苦労をせずに高度な技術を身につけている人が多いため、往々にしてこういう本ができてしまいますが、書かれていること自体は現代でも通用することばかりです。ただ非常に薄い本で、記載された内容が限られているのが惜しいです。なお日本語訳は適切で読みやすいです。
この本の著者のジョセフ・レヴィーンは、モスクワ音楽院をラフマニノフ、スクリヤビンと共に、金メダルで卒業した人である。優れたピアニストであり、教師でもあった。あのリヒテルもショパンの3度のエチュードを録音する際、アドバイスを求めた程の人物だ。<BR>そのレヴィーン氏が、当時の音楽雑誌に連載していたものを編集したものが、本書である。<BR>比較的短い内容ながらも、ピアノを正確に弾くための練習方法や、タッチについて、また暗譜の方法も説明されていて、内容構成に無駄が無い。<BR>読んでみれば、優れたピアノ教師が語りかけるように、あなたにも教えてくれるはずです。