個々のオペラを解説するのではなく、通史を眺めることによって、オペラの本質を見事に描き出した快著。特にオペラの衰退について明快な回答が与えられており、一読の価値がある。<P> 著者はオペラを王侯の娯楽と定義付ける。まず第一に、王侯の莫大な資金がなければオペラは上演することが出来ない。まあ、これは当たり前なのだが、もうひとつのポイントがある。それは宮廷儀礼であるからこそ、次々と新作が必要となったという点である。これに対し、現代のオペラはレパートリーの繰り返しで、新作が上演されることは稀になっている。王侯が富を見せつけるには、新しくてより豪華なものをつくっていくのが一番だが、目の肥えた市民め知識人は「名作」の新たな解釈へと向かっていく。その結果としてオペラは衰退したとされるのである。また現代に生き残ろうとするオペラが抱える様々な矛盾も指摘されている。<BR> なかなかの達見がちりばめられており、面白かった。
オペラについての本というと、ともすればオペラの価値を無条件に認め熱く語ってしまうものが多い。しかし、本書は、時代や社会的背景と絡め、ちょっとシニカルな視点でオペラを考えてみようというものである。このため、全くの初心者には不向きなところがあり、ある程度オペラ芸術に触れたことのある人に向けた通史といえるだろう。<P>シニカルな視点は例えば「オペラになじめない人のための注釈」なる個所が存在することにもよくあらわれている。また、著者はオペラのこれからの運命について、高級文化産業や郷土芸能として生き残っていくのだろうかという問いかけをしている。<P>これについては、私などは、これだけテレビやビデオが普及した現在においては、逆に生の舞台の価値が増すことはあれ減じることはないと思うがどうであろうか。歌手と同じ空間にいることができ、拍手やブラボーの掛け声などで舞台上と会話のできる場というものは、一方通行的な各種メディアに過食気味の現代人に大切にされうるのではないか、と希望的に捉えた次第である。