西太后関係は一通り読む私ですが、この本は新鮮でした。理由を述べます。<BR>他のレビュアーの方が書いておられるとおり「西太后は女性的な独裁者」という視点から書かれているのを読んで「なるほど!」と思いました。これは意外と西太后に対する今までの評価の盲点だったような気がします。<P>後は第一章の「現代中国の原点としての清末」これも読んでうなりました。加藤氏が「国民(ネーション)としての中国人は200年の歴史を持つアメリカ人と比べてさえずっと若く、国民国家形成のマグマがいまだに煮えたぎっているのである」と書いておられますが、これは現代中国を捉える視点での名言だと思いました。この第一章は非常に読み応えがあります。最後まで非常にクールに、ずばずばと西太后とその時代背景を描いていてぐいぐい引き込まれます。読み終わってから加藤氏の著書で「京劇」も読んだ事を思い出し、氏の中国に対する造詣の深さを思い出し納得できました。久しぶりに読後感がすかっとした本でした。映画の「西太后」や「ラストエンペラー」等のイメージを払拭する興味深い一冊だと思います。
これほど面白い歴史書は久しぶりに読んだ。<BR>例えば、西太后が宮中に入る「選秀女」の描写など、「後宮小説」を彷彿とさせる面白さ。人間ドラマを描いてページをめくる手を止めさせない面白さとともに、清朝という高度に発達した政治システムが非常に洗練された后妃選考システムを持っていたという「忘れられた歴史」を摘示するという歴史書としての役割もきちんと果たしている。<BR>特に、中国の最高権力者が権力の集中を避けるために、有力な部下を失脚させては復活させるという「手法」を西太后が確立したという指摘は新鮮だった。著者は、毛沢東による鄧小平の失脚-復活の繰り返しは、西太后が用いたものとまったく同じ手法であると指摘している。<BR>歴史を学ぶ楽しみは、歴史を知ることで現在が見えてくることである。そういう意味で、本書は現代中国を理解する手がかりを豊富に与えてくれる。<BR>面白くて役に立つ、絶対のお勧め本である。
西太后といえば天下に隠れなき清末政界の大立者。彼女の強力な指導で清朝は寿命を延ばしたと見るか、その恣意的独裁振りと天文学的浪費によって王朝の命脈を絶たれたと見るか、今でもとかく毀誉褒貶の絶えない人物です。<BR> 本書は、この一大女傑の生涯を通じ、太平天国から辛亥革命に至る清末激動の歴史を、一般向けに分かり易く解説するものです。特に興味をひいたのは以下の点でしょうか。<BR> (1) 西太后の統治スタイルにつき、呂后や武則天などとは異なり、中国全土への権力貫徹を目指すのではなく、帝母として孝養を尽くしてもらい、調度や食事など生活面での豪奢さを重んじる生活重視の「女性的」独裁であったと論じています。<BR> (2) 清朝の後宮制度等についても簡単な解説が付されていますが、特に后妃選抜システムの「選秀女」については、制度面を語るばかりでなく、参加者の緊張感が伝わってくるようなビビッドな語り口となっています。<BR> (3) 義和団事件を「反列強を標榜した大衆動員的政治運動」と捉え、文化大革命との比較を交えた分析を行っています。些か乱暴な気もしますが、興味をそそる工夫だと思います。<BR> (4) 清末乱世の世に重要な役割を担った、恭親王、李鴻章、袁世凱といった人々の活躍を、西太后との関わり合いの中で整理しています。<BR> 若干大胆に過ぎるところもあるように思いますが、説明の切り口はたいへんクリアカットで分かり易く、清末という時代の雰囲気をつかむという点では素晴らしい本だと思います。多くの方におススメしたいと思います。