なるほど、と納得させられる面と、内容的に古い面とがありますが、全体的に事細かで親切で、著者がどれだけ心を砕いて文章を綴っていたのかがよくわかる一冊です。<BR>近頃考えることもなくなった、日本文の「美しさ」を再認識させられました。<P>近代文学がお好きな方、日本語自体にこだわりのある方、純文学作家をめざしていらっしゃる方などにお薦めしたい本です。
小説、論文、随筆など、文章の形態はたくさんある。しかし、どのタイプの<BR>文章でも、その文章に合った美しく読みやすい文を一文一文丹念に紡いで<BR>ゆくという基本作業は一緒だ。<BR>いろいろ文章の書き方の本を読んではみたが、それらの大抵は<BR>小説や論説の大まかなストーリーや、説明の順序の組み立て方を<BR>説明するにとどまっており、文章の美しさをランクアップする術について<BR>はまったく書かれていない。細部の質を高めたいという欲求に応える<BR>テキスト的な本は現在でもほとんどないといっていい。<P>この本は一つのセンテンスの語彙、語感、リズムなどの諸要素を<BR>考察し、綺麗な一文をいかにして書くかということに主眼がおかれている。<BR>一行の文を自分の納得できる文に推敲し、磨くことに関して言及し、<BR>説明している本は日本の近代文学史上この本くらいではないだろうか。<P>現状よりももう一つ上の文章表現を目指す際、必ず考えるであろう要素が<BR>ほぼ入っているので、文章を書く人には是非読んでもらいたい。<BR>一語一語の使い方がどのような効果を与えるのかなど、文章を書くことの<BR>奥深さに触れられる本である。お勧め。
ちまたに文章の綴り方に関する教書は数多くあり需要も高いのですが、それによって優れた文章力を習得できるかというとそうではないことを、多くの方が感じておられると思います。またこうした教書のそれぞれに異なることが書かれているわけではなく、そもそも日本語の綴り方は個人の才能によるところが大きくて、教授されて得られるものというのは残念ながら限定されているといってよいでしょう。にも拘らずこうした教書に需要があるのは秀麗な文章に対する憧れと、教書自体を記す文章の流麗さにあるのではないかと思います。<P>この谷崎潤一郎著『文章読本』も内容的に目新しいことは書かれていませんが、本書の目的とする実用的でかつ美しい文章によって全文が構成されています。さらに名文の例として示されている文章が、まったく涙が出るほど美しく、あらためて文章の不思議さを感じさせられます。