なんだかんだ言っても官僚機構が当地には不可欠。じゃあ皇帝独裁は官僚機構をコントロールしうる体制かっていうと…<BR>雍正帝は頭の切れるモーレツ君主、そのモーレツ君主が過労死するほど部下の言葉を聴き丁寧に指示を出してもその効果は限定的だった模様。<P>著者も言ってるとおり、雍正帝は独裁の限界なんだろう。
どこぞやで、過労死した皇帝がいる、という文章を目にしたのが、私が雍正帝を知ったきっかけでした。それから、気になって雍正帝について書かれたものがないか、探していたのです。そうしたら、その名もズバリ「雍正帝」。本人の伝記があるではないですか、しかも著者はあの宮崎市定氏。これは手元に置かずにはおれません。早速入手して読んでみると、これが面白い!興味深い!あの宮崎氏が書いたものですから、楽しくて、ためになるのは請け合いですが、それにも増して著者の雍正帝に対する深い思い入れを感じて、感動せずにはおれませんでした。<P> 著者は全くもって才能ある人で、学者としての鋭い洞察を失うことなく、作家としての人への愛着を持ち続けている。自分は小説家ではないが、と前置きして末尾でささやかな雍正帝の性格描写をされていますが、わざわざ断ることには及びません。何せ史実として描かれている本書のすべてが、もう十分小説なのですから。小説以上に面白い、などという陳腐な表現は使いたくはないのですが、しかしまさに本書はそれなのですから仕方ない。父康熙帝の葛藤、兄弟間の争いの描写、また官僚との往復書簡から垣間見える赤裸々な本音、歴史とは調理ひとつでこんなにも美味しくなるのかと、全く感服してしまいました。それは著者が雍正帝に対して、強く同情し、高く評価しているからこそであり、歴史の中を生きた人に対する真摯な姿勢があるからこそなしえることと言えるでしょう。また、それだけに止まらず、歴史学者として、時代を鳥瞰することも抜けてはいません。雍正帝がこれ以上生きたとしても、それまでの反動としてむしろ政治を蔑ろにすることとなり、結果もとの木阿弥以下になったのでは、と寂しげに指摘されているところなど、歴史学者としての視点を感じます。
康熙帝、乾隆帝の蔭に隠れてあまり目立たない人ですが、この雍正帝こそ中国の皇帝による専制中央集権制をその極限まで推し進めた人です。<P>自分にも他者にも厳しく、他の家来よりも勤勉で、出身部族である満州族と漢民族を分け隔てせず、外国との戦争よりも国内の基盤の拡充に努めた、模範の鏡のような皇帝です。<P>あまりに勤勉だったため雍正年間は十余年で終わってしまった。多分過労死だったろうと想像します。<P>中国学の権威、宮崎市定氏が惚れ込む雍正帝。その宮崎氏も<P>「雍正帝の政治は正に善意にあふれた悪意の政治と言わなければならない。」<P>専制君主が名君過ぎると、かえって民衆が政治に覚醒する機会を奪ってしまうという批判ですが、どこかの国の誰かさんにも当てはまるような…?