龍樹による空・中観論の完成を受けて、仏教の言わば「深層心理学」として弥勒、無著、世親により確立された唯識思想。「西遊記」でおなじみの玄奘三蔵により中国に将来され、日本に渡り興福寺、元興寺、薬師寺に法相宗として受用された。唯識思想は、従来の仏教の分析である六識(眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識)に加え、深層にはたらく自我執着心である末那識と、一切を生み出す可能性を有した根本の心である阿頼耶識の二識を加えて、人間の精神活動が八識からなるとする理論である。末那識と阿頼耶識は、古代インド伝統の瞑想・解脱法であるヨーガの修練から発見された。本書は、難解極まりないとされる唯識思想をわかりやすい解説と豊富な図式で読者を飽きさせずに理解に導く。仏教の中心理論である唯識を知るまたとない良書である。
私がよんだ唯識の入門書のなかで一番わかりやすい。記述自体もわかりやすいが、30近くある図やキーワードを太字にしたりするなどそのほかにも唯識をわかりやすくするための著者の工夫が感じられる。
空思想とならぶび大乗仏教の大潮流である唯識思想は、瑜伽(ヨーガ)を実践し、自己の心のありようを深層から捉え、浄化することによって迷いから悟りに至るプロセスと方法を詳細に分析しているといわれる。<P> ヨーガの実践を通して発見された末那識(まなしき)や阿頼耶識(あらやしき)などの深層心理の分析は、現代の視点からしても興味尽きない。しかし、非常に難解な思想としても有名である。<P> 本書は、筆者がこれまでに読んだ唯識関係の入門書のなかでも、とくに分かりやすく、しかもある程度全体像を把握できるようにまとめられていると思った。本文中に、複雑な唯識思想を読み解くための図がたくさん挿入されており、これも参考になる。また、できるかぎり私たちの生き方の問題とのかかわり!!!なかで唯識を紹介しようという著者の姿勢が、さらに唯識を身近なものに感じさせる。