肉体を捨て、自らの精神をソフトウェア化した人類が、銀河系スケールで迫る危機に瀕して宇宙に進出する<ディアスポラ>計画を発動させるというハードSF。<P>数学・物理学的な広範な知識で理論武装された文体は、たしかに万人向けではないと多くの場所で書かれるのも無理はないでしょう。<P>作中に登場する物理理論が精緻化・厳密化してゆく過程は、<ディアスポラ>の驚異的な旅の射程と一対一の写像となっていて、そこにとどまることを、つまりはページをめくることを止めさえしなければ、読み進めるほどに宇宙の真の姿が語られてゆくのは、そもそもSFにだけ与えられた特権的な喜びといっていいはず。ワームホール、多次元宇宙、多宇宙解釈、超弦理論、といった最新の宇宙理論を追いかけるのが好きな人には、目に映るべくもない世界をこうして垣間見せてくれるイーガンの想像力に酔いしれることができるはずです。<P>もっとドラマチックな展開が好きな読者にとっては、直接的に訴えるドラマが少ない作品ではありますが、<ディアスポラ>から脱落していった登場人物たちが、なぜそこで留まろうとしたのかを想像することもまた、宇宙と、それに対峙した人類の姿を感傷抜きで描き出してくれていて、興味が絶えません。
読み手を選ぶ本のようです。文系の私には何が書いてあるのか理解できない部分が多かったです。私の推測では、理系の人でも十分理解できる人が少ないのではないかと思います。ただ、一部には絶賛する人がいるので、中身がないわけではなさそうな気もします。しかし、それは感動というより、「自分は普通の人には理解できない難しい本が理解できるぞ~」という類の喜びではないのでしょうか。訳者あとがきにも同じことが書いてありますが、よくもまあこれが商業出版できたものだと思いました。<P>私はあえてこういいたい衝動に駆られます。「王様は裸だ!」と。
発売と同時に購入して読みましたが、がっがりしました。<BR>難解さはそれほど感じなかったのですが、小説というより論文で、<BR>人間的な温かみがありません。文章も単調で、五感に訴えるところが<BR>なく、読み進めるのが苦痛。科学が全てと言う作者の考え方にもついて行けなかったです。<BR>やや厳しすぎる評かもしれません。わたしはロジャー・ゼラズニイやジョージ・R・R・マーティンといったSFでもファンタジー寄りの作家が好きなので、イーガンはもともと趣味に合わないのかもと思います。