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クライマーズ・ハイ ( 横山 秀夫 )

 知っている方も多いと思うが、著者は上毛新聞社で12年間記者を続けた。フリーライターに転身後、平成3年「ルパンの消息」でサントリーミステリー大賞佳作に。同10年「陰の季節」で松本清張賞。同12年「動機」で日本推理作家協会賞短編部門と次々に受賞。新聞記者時代の活動を活かした警察小説を引っさげて、推理小説界に旋風を巻き起こした。<P> 内容は、北関東新聞社記者の悠木は、ひょんなことから同販売局の安西と谷川岳の衝立岩に挑戦することになっていた。しかし、当日にあの日航ジャンボ機墜落事故が発生し、待ち合わせ場所へは向かえなかった。未曾有の大事故の現場が群馬県御巣鷹山となり、地元紙局は興奮のるつぼと化していた。そんな中、日航全権デスクを任された悠木は紙面作りの最中に、衝硊??岩に向ったはずの安西が入院中であることを知る。見舞いに行くと植物状態だと聞かされ、安西も山に向っていなかったことを知り、その理由が分からず悩む悠木。いったいどういうことなのか?<P> 上司のくだらないプライドや部下の精力的な記事、抜きネタ、元部下の死、息子、そして衝立岩と様々なことが絡まり合い、物語は進んでいく。最後は、亡くなった元部下の従姉妹である望月彩子、衝立岩に息子の淳がたてたハーケンが悠木に大切なことを思い出させ、奮い立たせる。<P> 「これぞ男の生きる道」といった感じにしびれること請け合い。実際に日航機墜落事故を取材したことで生まれたリアリティー感とフィクションの世界がうまく融合した秀作である。

群馬の地方新聞社の記者が主人公。御巣鷹山日航機墜落事故の取材、報道を通して、上司と部下、親と子、生と死の関係を描いた作品です。<BR> <BR>読んでいて、言葉に出来ないけど漠然とした重さが体に来ました。親子って、命って、自分の人生って、生きるって・・と、考えがまとまらないまま、読み終わってからもしばらくは、ふと気づくとこの事を考えていました。<BR> <BR>大切だけど、直視するのが怖かったり、あらためて考えようとしない問題が、この本の中にはたくさん投げかけられていて、今全部受け止める事は難しいけど、自分の生き方を考えるいいきっかけになりました。

1985年新聞記者悠木は、友人安西と谷川岳登山を約束するが、おりしも日航ジャンボ機墜落という世界最大の航空機の悲劇に遭遇することになる。このスクープに忙殺されることに。一緒に登れなかったことを悔やむが、安西も谷川岳には行くことなく病院に運ばれていた。時はたち念願の谷川岳登山の果てに見たものは…。<P>もっとこの墜落という衝撃の中で日航関係者や被害者のことを書いているのかと思いました。<BR>予想に反して、事故のことは舞台が新聞社だけに淡々と書かれていますが、新聞社ゆえのことです。この事故への怒りや、見てきたものにしかわからない現場の雰囲気が伝わってきます。<P>また横山さんの持ち味、「組織の中の個人の葛藤」がこの新聞社の中で、いかんなく描かれています。新聞は売れればいいのか?新聞社のモラルとは?スクープとは?真実とは?次から次にと読者に投げかけられてきます。<BR>日本中が悲劇に哀しみ、生存者に涙し、日本航空への怒りが渦巻いた、暑い、熱い1週間の新聞社の内部をノンフィクションと間違うぐらいに熱く語られています。<P>そして、横糸がジャンボ機墜落なら、縦糸は友人安西の死。<BR>「なぜ山に登るのか」「下りるために上るのさ」<BR>この会話が最後まで投げかけられています。そう意味ではれっきとしたミステリー小説。<BR>それぞれの人物が過去を持ち、過去を乗り越えるため、山を越えていく。人生には山を越えるときがある。<BR>そして、上り切ったら、まさにクライマーズ・ハイ。極限状態を通り越して陶酔の境地になるという。そして次の高みへ。<P>主人公の行いについて、賛否が分かれると思います。<BR>「組織の中でどうなのか」<BR>わたしはそれでも主人公の一途といっていいわがままを支持します。過去から未来へ前を向くための手段だったのです。<P>お薦めします。違う側面から日航ジャンボ機墜落を扱ったこの小説。読みきったときまさにクライマーズ・ハイの境地。まれに見る傑作です。

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クライマーズ・ハイ&nbsp;&nbsp;&nbsp;硬派の警察小説や社会派ミステリーの分野で当代一の横山秀夫が、上毛新聞記者時代に遭遇した御巣鷹山日航機墜落事故取材の体験を、本格長編小説にまとめ上げた。常に新しい手法を模索し手抜きを知らない著者の、会心の力作だ。<p> &nbsp;&nbsp;&nbsp;組織と個人の軋轢、追う者と追われる者の駆け引きなどを緻密な筆でつづり、水際立った展開で読み手を引きこむのが横山の持ち味である。しかし本作では、あえてその筆の巧みさに自ら縛りをかけ、実体験をベースに抑制の効いた渋い群像小説となった。トリッキーな仕掛けや、えっ、と声が出そうなスリリングな結末、といったものはない。練りに練ってこれ以上は足し引き不可能な研ぎ澄まされた文章で、未曾有(みぞう)の大事故に決然と立ち向かい、あるいは奔流を前に立ちすくむ人間を描いている。<p> &nbsp;&nbsp;&nbsp;地方新聞の一筋縄ではゆかない、面妖と言っても過言でない人間関係、ひりひりした緊張感。おそらく横山自身が体験したのであろう新聞社の内幕はリアルで、読み止めを許さない。過去に部下の新人がなかば自殺の事故死を遂げた負い目をもつ主人公は40歳の遊軍記者だ。大惨事の現場にいち早く到着し、人間性のどこかが壊れてしまった26歳の若手記者や、現場雑感の署名記事をつまらぬ社内の覇権争いでつぶされる33歳の中堅記者、「下りるために登るんさ」と謎の言葉を残して植物状態になった登山家の同僚――どの登場人物も、著者の一部であり、また思い通りにゆかない人生を懸命に生きる、すべての人間の一部でもある。<p> &nbsp;&nbsp;&nbsp;本作は、普通に捉えれば著者の新境地だろう。しかし、これはむしろ横山が元々、奥深くに抱いていたものではないか。著者は本書を上梓することで、自身も過去に決着をつけようとしている印象を強く受ける。やや明る過ぎて物足りない感のある結末も、聖と俗を併せ持つ人間にもっと光を当てたい、救いたいという願いであり、そしてなにより著者自身が本作を支えに新たな一歩を踏み出すためのものだろう。また、そうであってほしい(坂本成子)
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