山田詠美は、高校生の時にはまったことがあります。<BR>「ひりひりするような、読んでいて痛くなるような感情を<BR>こんな風に表現できるんだ~。」と思った覚えがあります。<P>それに比べるとこれは、緩やかな感じ。ひりひりするような<BR>彼女の持ち味は確かにあるのですが、前ほどではありません。<BR>なんというか、ゆっくりと濾過していくような感じ。<P>6編の短編から構成されています。<BR>読む前は、『風味絶佳』というくらいだから、<BR>「食欲」をテーマにした短編集なのかな?<BR>と思っていました。ところが、<P>「間食」…鳶職<BR>「夕餉」…ゴミ収集の仕事<BR>「風味絶佳」…ガソリンスタンドの仕事<BR>「海の庭」…引越し屋さん<BR>「アトリエ」…汚水槽の作業員<BR>「春眠」…火葬場の仕事<P>と、全て肉体労働に携わる人々が出てきます。<BR>作者曰く、「…世に風味豊かなものは数多くあれど、その中でも、<BR>とりわけ私が心魅かれるのは、人間のかもし出すそれである。<BR>ある人のすっくりと立った時のたたずまい。<BR>その姿が微妙に歪む瞬間、なんとも言えぬ香ばしさが、<BR>私の許に流れつく。」<P>そうだから、彼女にとって風味とは、人間のかもし出す雰囲気とか<BR>佇まいなのでしょう。<BR>そういう雰囲気が濃くなるのは肉体を使って働く人なのかもしれません。<P>私が好きなのは、「夕餉」です。<BR>「自分の作った料理によって相手の肉体が作られている。」<BR>という発想が新たな発見でした。
「ベッドタイムアイズ」から20年、あまり熱心な読者とはいえないまでもあの鮮烈なデビュー作は忘れられない。あれから20年、年を重ねて人並みに恋もし、傷つきもして、久しぶりに詠美姉さんの許に戻ってきた。人を恋する、愛するなんてたやすく言う人もいるが、愛する人が触れたもの、愛する人が満ちた空気をこんなにまでもいとおしむように丁寧に描くことにおいては詠美姉さんに敵う人はそうそういない。中でも私好きな作品は「春眠」、「夕餉」、「アトリエ」‥否、全て。こんなふうに惜しげもなく誰かを慈しむことを素直に羨望する。
漫画家だったときから好きな作家さんで、本が出れば中身も見ずに買っていましたが、これからはそれは無理だと思いました。<BR>何が違うとはっきりいえない自分がもどかしいのですが、「Pay day」以降は心に訴えかけてくるものがなくなりました。<BR>かつては、人の心の奥の奥をさらりと開けて、その崇高な部分も下劣な部分も鮮やかに描いてみせていた同じ人が書いたものとは、もう思えません。<BR>同じ頃からエッセイのほうも、見るに耐えなくなり、読むのをやめてしまったこともあり、それが読者である自分が変化したのか、はたまた著者が変化をとげたのか、わからないところ。<BR>ただこの本に限って言えば、私と同じ感想でもって「最後まで読めなかった」と言った人は数人おりました。<BR>感想を言うまでもいかず・・・・ということでしょうか。<P>山田詠美が書いた小説だから!!ってだけで彼女の作品を読むことは、今後はないと決定ずけた本となりました。<BR>正直、ちょっと哀しいです。