1巻から8巻までやっと読み終えた。読了後、不思議と、心を激しく動かされるような感動は無かった。この「坂の上の雲」は「小説」とはいえないからだろう。<P>この作品は、日露戦争という事件を、なるべく客観的に書いた叙事詩といえるものだと思う。秋山兄弟、正岡子規、東郷、乃木と、いろいろな人物が出てくるが、彼らの私的な感情は殆ど描かれていない。むしろ、私的な感情を抑え、対ロシア戦争で勝利するという目的の下で、自分の役割を規定し、邁進していく生き様が描かれている。自己を犠牲にして、大きな目的のために邁進していく生き様が、現代で生きている自分にとっては新鮮で小気味良かった。純粋にかっこいいと思った。その感慨が、自分の中にじんわりと残っていく感じだ。<P>乃木将軍は有能な司令官ではないが、偉大な精神者として描かれていた。「精神主義と規律主義は無能者にとっての絶好の隠れ蓑である」という一節が自分には印象に残った。自分にとっては、乃木将軍の気高い精神はかっこよく思えた。
元気がでないときには、この第八巻を読むことにしています。<BR>日本の艦隊がロシア艦隊を文字どおり「撃滅」できたのは、なにも神秘的なことではない、というのが司馬氏の主張だと思います。この本が出た当時、それはまだ新鮮さを失わない主張だったように思います。<P>七段構えの秋山作戦、旗艦で測距する統一的射法の採用など、考えつくされた結果であった。維新以来の海軍が実践の中から得た貴重な経験がベースにある。そこから抽出されたものであったろう。そうした「積み重ね」を見落とさないことが、大事なことだと思った。昭和の海軍は、残念ながらそれを見落としたと断ぜざるを得ない・・。
これほどまでに完全な勝利はかつてなかったというほどの勝利を日本海軍が収めます。<P>ロシアがその威信にかけて送り出したバルチック艦隊と、東郷平八郎率いる日本海軍との壮絶な激戦になるはずでした。<P>火力、艦数に勝るロシア有利が下馬評。<P>秋山真幸が練りに練った作戦。当日の東郷司令官の完全な指揮、それに一糸乱れず艦隊運動を行う日本海軍、戦いの前に編み出された正確無比な砲術。そして、戦火において動ずることなく行動できる戦士の士気。すべてにおいてロシア海軍を圧倒していたのでしょう。<P>戦いはあっけないほど完全に日本軍に軍配が上がりました。<P>ただ、ここでも敵軍のおそまつさに助けられる部分が大きく登場します。しかも、それが戦いの最も最初の部分、敵軍主力と日本海軍主力が最初にあいまみえる場面において出たものですから、『勝負は最初の30分に決した』のだそうです。<P>現代に生きる私たちが全く知らない、国家の為に命を投げ出す(太平洋戦争でのそれとは全く意味が違います)男達の壮絶な生き様に感動し続けていた私にとって、この勝利には胸のすく思いでした。<P>この本に出会うことができて本当に幸せだったと思います。