主人公の生い立ちは決してあかるものではない。その上、前途は多難で、明日食う米も無いときている。<BR>さて、どうしたものか…。<BR>そこで思いついたのが、「よろず揉め事解決します」。要は「何でも屋」。<BR>そんな主人公の「よるずや」ぶりは、粋で痛快!<BR>そして、ある事情でうやむやになってしまった元許婚との恋の行方は…。<BR>とても魅力的な主人公に、ぎゅっと引き込まれます。
主人公は知行千石の旗本の次男に生まれながら、妾腹の子であったため、居住まいの悪さから、実家を出て裏店に住み始めた神名平四郎。しかし、生活のあてにしていた友人2人との道場創設は、その友人の創設資金持逃げにより頓挫してしまいます。とはいえ、今更実家に帰ることも出来ず、日銭を稼ぐ為に、剣の腕と口上を頼りに「喧嘩五十文、口論ニ十文、さがし物二百文」等々、市井のよろずもめごとの仲裁稼業を始める羽目になります。<BR>剣の達人が、剣を頼りに日銭を稼ぐというストーリーは「用心棒日月抄」にも似ていますが、「用心棒」シリーズにあった「藩の密命を帯びて、黒幕を探して倒す」といった重いテーマやサスペンス性はなく、痴話喧嘩や養子探し等々、市井の人々の様々な相談を得意の剣と口で解決していく様は、主人公の楽天的な性格とも相まって、非常に面白く、読後感の爽やかなものです。著者の著作の中でもとりわけ明るい本で、著者の市井物ファンにお奨めの本です。
活人剣というと、例えば眠狂四郎のようなものをイメージしてしまいがちだが、本書における「剣」はあくまでも江戸時代の庶民生活、悲哀といったものを如実に描く道具として使われているに過ぎない。剣の達人でありながら苦労の耐えない主人公は現代の一般サラリーマンに通ずるところが多く、平民の視線で描かれていてとても読みやすい。2巻に渡ってほのぼのとした恋愛物語をさりげなく貫いている点も心地よく、肩の力を抜いて読むことが出来る。