同じオーケストラを別の指揮者が振ると、音が変わる。これが計算されたズレによるものだと納得しました。指揮が先で、音が後に出てきます。こんな単純なことを再認識させられました。<BR>やはり岩城さんの文章は軽妙で説得力があります。
初演奏の悪魔といわれている近代音楽を積極的に指揮する岩城宏之さんがかいた”指揮者に憧れているけどなれないだろう”人のためのおけいこ。もちろん若い音楽関係者たちにも見えそうで見えない身近なヒントをちりばめている。岩城さんの正直な疑問や率直な感想などがユーモアとなって大変面白い。一日に何回、指揮棒を振るうとか、かっこいい燕尾服の作り方のひみつなど親しみやすい話題でいっぱいだ。
岩城さんには、岩波新書の「フィルハーモニーの風景」「楽譜の風景」などのエッセイ集があって、どれも面白いが、ウィットに富んだ庶民感覚の語り口は健在で、とても読みやすく、楽しい。<P>この「指揮のおけいこ」もその例に漏れず、どのページもすいすい読んでゆけるが、題名を意識してか、指揮者としての<あく>のようなものも感じられるスタイルが他著とすこし違っている。<P>それにしても、『指揮者は遅刻してはならない』『(指揮者の仕事として)オーケストラの真ん中でカッコよく両手を振っているのは氷山の一角で、水面下の圧倒的大部分はスコアの勉強である』などの、岩城さんの主張は、大指揮者に向かって失礼ですが、我が意を得たりの感がある。<BR>世のアマチュア指揮者は、すべからくこのレッスンを受講するべきでしょう。