たった3冊の短編集でアメリカ文壇のカリスマとなったスーパーおばあちゃん、グレイス・ペイリー。彼女の小説の世界はリアリズムに徹していながらどこか漂うようなつかみ所のなさがある。それは主人公の眼を通して、と同時に、世界が俯瞰的に見えてしまうから。風景描写が細かいというわけでは決してないのに、なぜか描かれる世界の人物像から小物のひとつひとつまで恐ろしく正確に見えてくる。不思議で素敵な短編集。訳も原文に忠実ゆえに、男性の文章とは思えない。
学生時代、飲み屋でつまみとして初めてピスタチオを食べたとき、殻をむいてから食べる・・・ということを知らなくて、そのまま齧りついて歯が欠けそうになった恥ずかしい経験があるのですが、ペイリーさんの文章はその硬さを思い出させます。その癖のある文章は生半可な読み方をしているようでは太刀打ちできない。いったい何を言いたいのかよくわからなくて途方に暮れることにもなる。実は1999年に刊行された単行本を読んでいて、近刊の「人生のちょっとした煩い」(文藝春秋)を読了したあとに、文庫化された本書を改めて読んでみたのですが、村上春樹があとがきで記しているように、何度か読み返さないとペイリーさんの持っている「味」はわからなさそうです。再読してみて、口の中に入れたピスタチオはまた殻が付いていることに気がつきました。