名人 司馬遼太郎の見事な筆さばき。一見凡庸としていてじつは人間的な面白みに溢れている・・こんな人物を描かせたら司馬遼太郎は本当に、殆ど芸術的に、上手い。<BR> 主人公の一人、山内一豊は、同時代の傑物、信長や秀吉と比べると足元にも及ばぬほど、小さい。それがもう一人の主人公、妻千代の助けにより、戦国の巨人達の間で生き抜いてゆく。<BR> 信長や秀吉とは違い、自分の身の丈をわきまえながら歩いていく。そんな姿が、実に爽やかで、誠実な物語を生んでいる。
1963年から連載された作品で、司馬さんの作品では比較的初期のものです。同じ時期に「国盗り物語」や「関ケ原」などが執筆されていますから、体一つの取材の中から生み出された作品だと思います。面白いのは、斉藤道三や織田信長、徳川家康や石田三成などシリアスな人物を中心にした作品を書かれながら、一方では山内一豊という、少し滑稽ではあるが、武士として一途な生き方をする人物と、その主人を陰で支える妻の生き様をモチーフにした作品を書かれるところに、司馬さんの器用さを感じます。<BR>多面的に時代の動力を描こうとされた、司馬さんの姿勢を感じることができる作品です。
以前から読みたいと思っていたのですが、他の歴史上の英雄を扱った作品に比べるとどうも地味なので後回しにしてしまっていました。が、2006年度のNHK大河ドラマになるということで順番を繰り上げて読んでみました。<P>まず結論から。月並みな表現ですが、最高におもしろいです。<BR>内容は、凡庸だが律儀者の一豊と美しく聡明な千代。この一見不釣合いな夫婦が二人三脚で元亀天正戦国の世を生き、功名の坂を駆け上がり、ついには国持大名になる。というサクセスストーリーです。<P>凡庸な人物の成功譚なので、凡庸な自分にとってはいろいろと学べることが多かったです。特に夫婦を描いているため、男とは、女とは、夫とは、妻とは。。。といった具合の処世訓的が多く盛り込まれており、読んでいてうんうんとうなづくことが何度もありました。<P>そして、本作品は何よりもドラマ性が強烈です。<BR>一介の足軽から国持大名へのステップアップの途中で、幾多のドラマが登場します。顔面に矢が刺さりながらも功名への執念から敵将の首級を手に入れたり、黄金十枚の名馬唐獅子や来国俊の槍を手に入れるエピソード。創業からの譜代家臣吉兵衛の戦死など。。。また、土佐の国主となってからの意外な結末にも驚かされました。<P>司馬作品の中でもドラマ性の高さは最高クラスです。読んでいてジーンと来る場面も多々ありました。それだけに大河ドラマには最適だと思います。NHKにはぜひ後々まで語り継がれるような名作ドラマを作ってもらいたいです。