宦官といえば、国政を壟断し富貴を独占した成功者のイメージが強い。<BR>だがこの本ではまず、性器切除というのがどんなに屈辱的で肉体<BR>的・精神的苦痛を伴い、そのために異常行動・心理に彼らが陥る<BR>背景を、そして大多数の宦官の生活は宮廷の奴隷であり、惨めな<BR>ものであったかが嫌というほど克明に描かれている。性器切除の<P>描写はあまりに赤裸々で年少者にはこの本は向かないかもしれない。<BR>それをふまえた上で、富と権力を得、皇帝までないがしろにする<BR>ほどの強権を持った数パーセントの有力宦官たちのあくなき権勢<BR>欲、宮廷闘争、秘密警察としての暗躍に多くの紙面が割かれている。<BR>中国史に有る程度興味がないと少しつまらないかもしれないし、<P>予備知識がないと解りづらい感もある。<BR>宦官というものを理解するうえでとても参考になる本であるが、<BR>研究書とは言えない。さらに興味があれば、できれば他の著作や<BR>研究書にも触れることをお勧めしたい。
宦官といえば、大体が権力を握った、大物宦官の傍若無人ぶりが、中国史の中でのおもな印象であろうと思います。そうでないとすれば、去勢を受けた、無性の特異な存在として奇異の目で見るのがふつうでしょう。しかし、大多数の宦官たちがそんな権力とは無縁で、非自然な存在といっても、すべての部分で倒錯的であったわけではないという、いわばそんな当たり前な事が主軸となって語られていきます。<P> 皇帝の生死をも左右する大物宦官から、虫けら扱いされる平宦官まで、宦官なら、どんなに権力を握ろうとも逃れることの出来ない蔑視や、共通して抱かざるを得なかった劣等感。そしてそれらを作り出し、また自ら壊すこともした、皇帝権力はじめ、彼らを取り巻く冷たい環境の説明。どんな宦官も、振り出!は常に同じ。戦後までに生き残った宦官の話や、宦官たちの心の中が垣間見える、過酷なエピソードの数々を使っての宦官の生態についての解説は、同情を禁じえないと同時に、普段あまり注意されることのない、無数の宦官禍の根の部分を見たように感じました。<P> 著者はどちらかと言えば宦官に好意的です。一種のあだ花としてではなく、社会の必要な一要素として見ています。私はこの見方に好感を持ちました。疑似ではあっても宮女との結婚をすることがあったとあります。この本の宦官の「私」に触れた、とても面白い例でしょう。
単行本で出版されたときに購入して読んだにも拘わらず、今再び文庫化されたので、またもや買って読み直してみました。<BR> 中國の宦官の全体像ないし全史を網羅的に扱っている訳ではありませんが、やはり随分と興味をそそられる内容であることは事実であります。<P> ただ敢えて苦言を呈すれば、現代中國人の筆になる著述であるせいか、宦官が主君の男色相手をつとめ(させられ)ていた、つまり皇帝・国王らの枕席に侍っていた史実に関して殆ど言及されていない点が気に懸かりました。<BR> とはいえ、本書が萬人に推薦出来る「面白い書物」であることには変わりありません。