科学者とはどうしてああも地味で、しかし粘り強いのか・・・!?<BR> 本書は探査機「のぞみ」の航海を辿った科学ドキュメンタリーであると同時に、読者に「科学者とは何か」そして「失敗とは何か」を考えさせる人間ドキュメンタリーである。<BR> われわれ国民の負託を受けたプロジェクトが、どういう経過を経て産声を上げ、開発を完了し、長期運行の挙句、結果的に破棄せざるを得なかったか。本書はまさに我々が最も知りたかったこの点に対し、概ね客観性をもって「説明責任」を果たしてくれる一書である。<BR> 極めて高い要求条件を、欧米の数分の一の経費で実現せねばならない日本の科学者。「技術立国日本」を支える彼らのストイックなまでの奮闘振りは、読む側に「感動」か、何かに対する「幻滅」かのどちらかを与えるだろう。80年代世界を震撼させた、日本というかつての技術大国よ、「子供を退屈させるな!」。
副題には「のぞみのたどった12年」とあるが、その胎動は1970年から始まっており、前半部は打ち上げまでの紆余曲折が書かれている。のぞみ失敗の萌芽はすべてここに凝縮されており、要約すると「みんなビンボが悪いんや」ということになる。しかしながら、貧乏を知恵で克服する過程は実にスリリングで、読んでいると技術者魂に火がついてしまう。<P>あと、前半の山場である「あなたの名前を火星へキャンペーン」で、最初は不満タラタラだった関係者が、ハガキに書かれたメッセージを読んで次第にモチベーションを高められていくシーンもいい。日本の宇宙開発における的川氏の存在が、いかに重要かがわかるエピソード。<P>しかし、その盛り上がりも、打ち上げ後に次々と襲いかかるトラブルへの対処に比べたらものの比ではない。まったく、地味~な軌道計算が、こんなにカッコよく描かれていいのか。地味が得意(?)な谷甲州でも、こんな描写は書けまい、というくらいカッコいい。これを学生に読ませたら、軌道計算屋志望者が街にあふれるよ!<P>もちろんその後の、かの有名な1bit通信から、スイッチON/OFFによるリミッター焼き切りまで、ギリギリまで粘って先へ進もうとする技術者たちの奮闘は、本当に涙なしには読めない。最終的に火星周回軌道への投入は失敗したわけだが、ここまでやったんなら、これだけの経験が積めたのなら、いいじゃんと思う。この経験はきっと「次」に活かされるわけだし。一国民としては「次」の実現を世論で後押しする、それだけだ。
最近、火星が熱いです。特にアメリカは火星に並々ならぬ関心を持っており、探査機を次々に打ち上げています。そして、20年以内に火星に橋頭堡を築こうとしています。<BR> 2003年の末から2004年の初めにかけて、世界中は火星探査機ラッシュに沸き立ちました。欧州は着陸機が失敗したものの、周回衛星は素晴らしい実績を上げています。アメリカはご存知の通り、2機の探査車をピンポイント着陸させる事に成功し、過去に火星に水があったという事実を解き明かしました。そして、我が日本の探査機も火星に到着して…いるはずでした。それは叶いませんでした。火星目前にして、軌道への投入を断念せざるを得なかったのです。<BR> 本書は、そんな悲劇の火星探査機「のぞみ」の軌跡を辿っています。そもそもの探査機の構想から始まり、至難を極めた開発、順調すぎた打ち上げ、そしてトラブル、瀕死の探査機をなんとしても火星に到達させるべく、科学者・技術者達が苦闘します。手に汗握る場面の連続です。<BR> 理・工学系の人なら、本書の隅から隅まで理解できると思います。そうでなくても、「のぞみ」の軌跡に、多くの人が感動するはずです。<P> しかし日本の火星への挑戦は、これで終わりではありません。むしろ、まだスタートラインに立ったばかりなのです。本書の先に、次世代の探査機が待っているのです。