かつて文学を翻訳する作業とは、日本にはない外国の風習や表現を何とか日本語に置き換え、「異文化を伝える」という使命を持った素晴らしく誇り高き仕事であったはずだ。<BR>工業製品や医薬品の説明書の翻訳作業でも、専門分野のエキスパートでないと通用しない。原著のミスをそのまま訳して知らん顔では、クライアントも金は払わん。<P>さて、かつてここまで「レコード・コレクター」という人種の生態を、リアルに書いた秀逸な本はないのに、こんなに誤訳が目立つエディションでいいのか!すぐに改訂版を出すべし!<BR>大事なビニール周辺アイテムに関する誤記、ビートルズの曲名はおろか原著のミスと思われる箇所はそのままだし。<P>我々は、人生の全てを「レコード収集」という遊びに賭けているのだ。<BR>たとえネット上での株価の下落にはリアリティーが感じられなくても、手に入れたオリジナル盤のコンディションには人一倍気を遣う生き物なのだ。<P>これでは我々コレクターに失礼だし、何より翻訳作業にあたり愛がないよ、愛が。せっかく日本語版を許可した著者もこの事実を知ったら、残念がるのでは。
まさにタイトル通り、ジャンキーと呼ぶほかない、どうにも常軌を逸した強者たちが次々に出てくる。自分もアナログレコード好きの一人だと思っていたけど、この本を読んだ後では、たまに中古レコード屋をのぞく程度の身では、とてもビニール好きなどとは言えなくなってしまう。まあ、それがレコード「好き」とレコード「ジャンキー」の違いなんだろう。読んでいて話としては笑えるが、さすがに、キツネの悲鳴の入ったレコードを買うような人種や、オリビア・ニュートン・ジョンのコンプリート・コレクションを目指すような人種の仲間入りはしたくないし。<P>レコード屋で一度でもとんとんとレコードを順に見ていく楽しさを味わったことがある人なら、ここに出てくる固有名詞が仮にほとんどわからないとしても、とりあげられているアーティストやジャンルが好みにあわないとしても、内容は楽しめると思う。図版はないし、有名アーティストや名盤というよりはそうでない人・盤がわんさと出てくるしで、一見とっつきはよくないが、レコード・コレクターの姿をこれだけいきいきと描いている文章はなかなかないと思う。<P>ただ残念なのは翻訳。マニアの世界を描いたものだから、当然その道のマニアも手にすることになるだろうが、コアな音楽好きが、ビートルズの「She's leaving you」なんて曲名が平気で(しかも最初のほうに、しかも2カ所も)出てくるを目にしたらいったいなんと思うだろうか。この本のデータ、だいじょうぶ?という気持ちにならざるを得ないだろう。ほかにも誤記は目立つし、訳者が知らないまたは調べてない語が適当なカタカナになっていたりも目に付くので、こういうアラが気になってしまう人はペーパーバックで読むのもいいかもしれない。「She's leaving you」が出てきたところでやめてしまうにはもったいない本なので。
もし、あなたの知り合いに LP レコードにハマっている人がいるとして、そのハマる理由やその人の言動が理解不可能だったとしたら、この本を読んでみて下さい。<P>この本に登場する人々はみなアメリカ在住の重病人ばかりです。おそらく常人には理解不可能な、塩化ビニール製の黒い円盤に対して常軌を逸した愛情を注いでいる人達の話が次々と紹介されています。しかし、そのキチガイじみた言動の中に、至極まっとうな、共感できるものを少しでも感じたとしたら、あなたも正常な人間である証拠です。<P>全てをなげうって、なにかにのめりこみ熱中するということは素晴らしいことです。世の中とはそういうものです。こういう脳味噌がぶっこわれた人達 (ええ、私もその一人です) が少なからず生存しているという事実を知っておくことは、決して無駄にはならないことでしょう。<P>「あなたはどういう人ですか?」と言われたら「この本の通りです」というつもりです (半分うそですが)。