新しい書き下ろし短編『You can keep it.』について述べてみようと思う。 <P>話としては、『インストール』より短いが、コンパクトにまとまっていて密度が濃い印象を受けた。その時々の楽しみの量は、『You can keep it.』の方が上だったように思う。あるいは「ネットで金儲け」と言うテーマよりも、「淡い恋愛物語」の方がテーマとして単純に楽しかったからかもしれない。ただ、『インストール』の文中で見せた独特で巧みな比喩は減少している。 <P>『インストール』の主人公は女子高生であり、当時の作者と同じであった。それゆえ自伝小説を書くような要領で書け、書きやすかったのではないかと思う。『蹴りたい背中』についても同様だ。 <BR>だがこの『You can keep it.』では、男子大学生が主人公だ。すこし自分から離れた人物を主人公とすることに挑戦しているわけだ。いわば主人公と言うキャラクターを、"自分"から離陸させることを試みている。 <P>その"離陸"は小さな成功を収めているように思う。「小さな」と言うのは、僕はこれはこれで面白かったと思うものの、他方で「いや、面白くなくなった」と感じてしまう人が生じている事による。これが万人をもってして、「随分面白くなった!」と言わしめれば大成功と言えそうだが、そうではないからだ。 <P>とは言え、どんどん頑張ってほしいものだ。次回作では作者からさらに離陸した主人公と、作者の才能ともいえる独特の切れ味の表現を両立させた小説を期待したい。
「インストール」は実は初めて読んだが、すごかった。<BR>特に冷えたナメコ汁を飲むところでは、うなった。どろりとした汁の口当たりと、ナメコの歯ごたえまでが思い浮かんできた。<BR>しかし、「You can keep it.」は、二度読んでも、登場人物が像を結ばず、個人的には失敗作だと思った。
何もかもがバカらしく感じる。みんなと同じことをすることが虚しく思えてしまう。でも、自分は特別な存在ではなく、平凡な人間でしかないことも分かっている。<BR>そんな心の葛藤やわずらわしさから解放されたいと思うことは誰にでもあります。<BR>「“エロチャット”という手段を用いていて、作品に暗い影が射すのでは?」とも思いましたが、明るい雰囲気で最後まで読むことが出来ました。<BR>しかし、“明るい”といっても微妙な心理を描いています。ラストが前向きなことも好感が持てます。